河のさざめく音が夜の静寂を破る長閑な村。
その村には、昔から伝わる不気味な伝説があった。
友人の中で一番の親友だった聡と、残された友達たちが語るその伝説は、何かの拍子に思い出されることがあった。
物語の始まりは、聡が不思議な河のほとりで見つけた、赤い血のような色をした花だった。
聡がその花に手を伸ばすと、友の中でも活動的な拓海が「触るな!それは禁断の花だ!」と叫んだ。
拓海は言っていた。
「それはこの村で居場所を失った者たちの血が滲み込んだ花だ」「その花を持ち帰る者は、必ず身を滅ぼす」と。
聡は興味を覚えたが、拓海の忠告に耳を傾け、花に触れることは結局なかった。
しかし、彼の心には好奇心が燻り続け、その後もその花が気になって仕方なかった。
友人たちの中でも聡は一番の冒険家であり、いつかその花を探しに行こうと思い続けていた。
数日後、とうとう聡は決心した。
彼は一人でその河に向かうことにした。
暗い夜に一人で歩みを進め、河の水面に映る月の光がほのかに彼を導いた。
その河の岸に着くと、聡は深く息を吸い、この禁断の花が本当に存在するのかを確かめるため、一歩を踏み出した。
花が生えていたあたりに近づくと、異様な鳴き声が響いた。
聡は驚き、一瞬立ち尽くす。
その瞬間、目の前の水面に反射した月明かりの中に、なぜか聡の親友だった拓海の姿が浮かび上がっていた。
拓海は笑顔を浮かべていたが、目はまるで血のように赤く染まっていた。
「聡、こっちに来て」と、拓海はぼんやりと音を立てた。
その声は不気味で、聡の心に恐怖が広がる。
拓海はそのまま河の中に消えていった。
聡は恐ろしくなり、足がすくんで身動きが取れない。
代わりに、やがて水面から赤い滲みが広がり、血のように見えた。
恐る恐る振り返ると、後ろには何も見えない闇が広がっていた。
聡は血の気が引く感覚を覚えたが、何故かこの場所から動けなかった。
心の中で拓海の声が響く。
「お前も、この河の秘密を知るべきだ」と。
その瞬間、聡は強い敗北感に襲われた。
彼は自分の心の中の好奇心が、何かを奪うことになったのだと、本能的に感じ取る。
そして、拓海の声は次第に大きくなっていく。
「友を置いて行くのか?僕を、忘れるのか?」
聡は恐怖に耐えられず、河の岸を駆け出した。
背後から拓海の声が追いかけてくるように響いた。
「逃げるな、聡!お前も仲間だろう!」
水面から無限に伸びる赤い滲みが聡の後を追いかける。
彼は自らの心の中の友を裏切ってしまったような気持ちに苛まれ、ますます足がすくんでいく。
「待って、聡!」という声が頭の中で反響する。
走り続けた結果、聡は村にたどり着いたが、すでに時間は遅く、村は人々のいない静けさに包まれていた。
しかし、聡の中には一つの事実が残っていた。
彼は拓海を忘れてはいけないと感じ、友を救えなかったことが重くのしかかっていた。
村の夜が深まるにつれ、聡の周りには闇が広がり、やがて拓海の姿が再び水面に現れた。
彼の赤い目が聡を見つめ、「逃げられない」と告げる。
聡は自分が犯した過ちの重さを知り、逃げ道を失ったことを悟った。
そして、恐ろしい運命が彼を待っていることを感じながら、彼は一歩踏み出した。
再び友の姿に向かって。