夕暮れ時、莉子は友人たちと一緒に静かな池の近くで遊ぶことにした。
この池は昔から「血の池」と呼ばれ、地元の人々には忌み嫌われる場所だった。
原因は、その池で何十年も前に起きた悲惨な事件にある。
ある女性が池に投身自殺をし、以来、その水面が赤く染まることがあったという。
村人たちは、その池の水が、彼女の恨みや悲しみを吸い込んだ結果だと言い伝えていた。
莉子を含む一行は、最初はその話を冗談混じりに聞いていた。
しかし、日が落ちるにつれ、周囲は薄暗くなり始め、異様な雰囲気に包まれていく。
友人の拓海が「ちょっと池を見に行こうよ」と言い出し、みんなは笑いながらもその提案に従った。
池のほとりに立つと、水面は不気味に静まり返っていた。
雲が月を隠し、辺りの景色は暗闇に包まれていく。
莉子は一瞬だけぞっとしたが、友人たちの明るい声に励まされ、恐れを振り払った。
彼女は横に立つさやかに向かって「ねえ、ここ本当に怖いね」と言ったが、さやかもあまり気にしていない様子だった。
その時、莉子は池の水面に何かが映っているのを見つけた。
血のように赤く染まった景色の中で、彼女の顔が映っていた。
しかし、その映った姿はどこかおかしい。
彼女の表情が微笑んでいたのだ。
莉子は不安になり、「みんな、見て!私の顔…なんか変だよ」と言ったが、友人たちは笑って「気のせいだって」と言った。
その後、莉子は目を閉じて、池の水に手を浸してみた。
冷たく、少しぬるい感触が彼女の手を包んだ。
その瞬間、背後からぬるい手に触れられる感覚がした。
「誰かいるの?」不安に思い、振り返ったが、そこには誰もいなかった。
恐怖を感じた莉子は、仲間たちの元へ戻ろうとしたが、なかなか足が動かなかった。
まるで、何かに引き留められているかのようだった。
その瞬間、池の水が波立ち、赤く染まっていった。
まるで血が湧き出ているように見え、莉子は恐怖を感じて身をすくめた。
「早く離れよう!」と叫びながら、彼女は仲間たちに向かって走り出した。
しかし、足元が滑り、莉子はそのまま池に転落してしまった。
水の中に沈み込む感覚、苦しみ、そして、池の底から何か冷たいものが触れてくる。
莉子は必死に泳ぎ、頭を上げようとしたが、何かに足を引っ張られている。
周囲が真っ暗になり、さらに恐怖が襲ってきた。
そして、彼女は目の前に一人の女性の影を見る。
黒い髪、白い服、そして暗い表情で莉子を見据えていた。
「助けて、お願い…!」莉子は叫んだ。
しかし、その女性は何も言わず、ただ冷たい笑みを浮かべるだけだった。
莉子はその瞬間、その女性が過去に池で命を落とした女性であることを理解した。
彼女は自分を池に引きずり込もうとしているのだ。
ようやく莉子は力を振り絞り、一気に水面に上がった。
彼女は必死に泳ぎ、岸にたどり着くことができた。
しかし、振り返ると、女の影は水の中に消えていった。
莉子は深呼吸をし、恐怖から解放されたかのように感じたが、心の奥には冷たい恐怖が残っていた。
その後、友人たちが心配して岸まで駆け寄ってきた。
「莉子、大丈夫?」と拓海が声をかけるが、莉子は何も言えず、ただ池を見つめていた。
「もうこの場所には来ないほうがいい」と彼女は心の中で誓った。
血の池の恐ろしい話は真実だったのだ。
以後、莉子は友人たちとともにその池を避けることになったが、あの女性の冷たい笑みは忘れられず、彼女の心に傷を残したままだった。