「血の契約と影の始まり」

密は、秋の訪れを感じさせる冷たい風の中、古びた倉庫へと足を運んだ。
彼の心の中には、友人から聞いた小さな噂が渦巻いていた。
「倉庫の奥には、血の始まりがある」と。
近所で語り継がれるその噂はあまりにも不気味で、誰もが興味本位の好奇心を抱かないようになった。
しかし、密はその言葉に引き寄せられ、その真実を確かめたくなった。

倉庫の扉を開けると、古い木の床がきしむ音が響き、埃まみれの空気が彼を迎えた。
まるで何かがまだこの場所で息づいているようだった。
薄暗い庫内を探ると、少しだけ光る物体が目に入った。
それは赤黒く変色した液体が滴る、傷みかけた木の箱だった。

密は恐る恐る近づき、箱のフタを開けた。
中には小さな札が入っており、「血の契約」と書かれていた。
彼はその言葉を見て冷や汗が背中を伝った。
「これは、一体何なのだ?」彼の胸には、想像を超えた不安が広がった。
そこで彼は、桐山という友人にその話をしたことを思い出した。
桐山はこの倉庫の歴史を調べるために一度来たことがあり、ここで起こった奇妙な出来事について語っていた。

密はその思い出を振り払うように、箱を元に戻すことにした。
しかし、触れた瞬間、目の前の暗闇がひゅっと動いた。
「始まったのか…」彼の心の中で何かが芽生えて、暗闇が彼を覆い始めた。

周囲の音が消え、視界が狭まり、まるで彼が異次元に引きずり込まれるかのようだった。
突然、耳元で囁く声がした。
「いつまでも逃げられぬ、密。」その声は、まるで彼自身の心の奥底から湧き上がるように感じられた。
彼は驚いて振り返るが、周りには何もない。
意識を失う前に、彼は倉庫で何かが始まってしまったのだと悟った。

次に気がついたのは、彼の目の前に立つ一人の女性だった。
彼女は白い服を身にまとい、顔は影に隠れて見えなかったが、その手には赤い血が滴るような古い祭具が握られている。
女性は密を静かに見つめていた。

「あなたが選ばれたのです」その言葉は、まるで彼の内なる声の一部が形を持って現れたかのようだった。
「血の契約は、あなたの選択によって完結する。」彼女の言葉は、暗闇と一体化し、彼の体を突き刺すかのように響いた。

密は混乱していた。
彼はその場から逃げ出したいと思ったが、足がすくんで動かすことができなかった。
女性の目には悲しみが宿っているように見え、彼女が何を求めているのか、理解しようとしたが、恐怖と混乱が彼を支配していた。

「選択しなさい。血を求める者として。」その言葉に、密は自分の内側で抑え込んでいた恐怖が解放されていくのを感じた。
彼は桐山のことを思い出し、彼がこの所在地で何を発見したのかを考えた。
「あの日、桐山は何を見たのか…」

すると、背後で音がした。
密は振り返ると、倉庫の壁から黒い影が這い出てくるのを目撃した。
それは、かつてこの場所で血の契約を果たせずに閉じ込められた者たちの影だった。
彼らは密の方に向かって伸びる手を出し、同時に「選ばれた者よ、選びなさい」と叫んだ。

深い絶望感に襲われながら、密は自分の選択を迫られていることを理解した。
選ぶことで何が待ち受けているのか、ただその先にあるものに対する恐怖が彼を捉えた。
しかし、彼はすでにこの場から逃げることはできなかった。

「私は…選びたくない」と心の中で呟いた。
すると女性の姿が変わり、その悲しみの目は一瞬、優しいものへと変わった。
「あなたの選択が、彼らを解放するかもしれません。」

密はその言葉に少しだけ安堵したが、結局何を選ぶことができるのだろうか。
恐怖に押しつぶされそうになりながら、彼は振り返り、背後の影たちを見た。
全てを失うことは恐ろしいことだが、彼は自分の意思で選ぶことを恐れてはいけない。

「私は…選びます。あなたたちを解放する!」密が叫ぶと、周囲の暗闇が一瞬消え、光が差し込んできた。
しかしその先に何が待っているのかは、まだ彼の理解を超えた世界に響いているようだった。

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