「血の呪いと消えた声」

ある秋の晩、静かな田舎の村に、平井和也という若者が住んでいた。
彼は地元で穏やかに暮らし、特に大きな波乱もなく日々を送っていた。
しかし、最近村ではいくつかの不思議な現象が起こり始めた。
村の家々の壁に、まるで誰かの血が流れ落ちているかのように赤い跡が見られるようになったのだ。

村人たちは恐れおののき、特に夜になると外歩きすら避けていた。
しかし和也は、この現象が何なのかしらべることを決意した。
彼は村の中心にある古い神社へ向かい、そこで何か手がかりを見つけられないかと思った。
神社は薄暗く、静まり返っていた。
鳥居をくぐると、冷たい風が彼の背中を押すように感じた。

神社の境内には古い木が立っており、その周りには何やら不気味な雰囲気が漂っていた。
和也がその木の近くに近づいた瞬間、風が強く吹き、その音の中に微かに「助けて」という声が紛れ込んでいた。
驚いた和也は目を瞠り、思わず反応してしまった。
果たして、自分の錯覚なのか、それとも本当に誰かの声なのか。

彼はその声を追いかけるように木の根元にしゃがみこみ、注意深くあたりを観察した。
すると、木の根元に小さな石が並べられていることに気がついた。
その石の一つには鮮やかな赤い染みがついており、まるで血のようだった。
和也は思わず手を伸ばし、その石を触れようとした瞬間、突如として冷たい手が彼の肩を掴んだ。

振り返ると、そこには彼の知人であった小林という男の姿があった。
小林は神社の近くで行方不明になり、村全体が彼のことを心配していた。
驚きと恐怖の中で和也は尋ねた。
「お前、どうしてここにいるんだ?」

小林は、目が虚ろで、口を開いた。
「僕はここに捕らわれている…血の呪いに囚われてしまった。」彼の言葉に、和也は言葉を失った。
なぜ彼がそんなことを言うのか理解できなかったが、何か異常なものを感じ取っていた。

「血の呪い?どういうことだ?」和也は必死に問いただした。

小林はゆっくりと説明した。
「村の過去に、血にまつわる悲劇があったんだ。人々が代々、今もなおその呪いに縛られている。」

言葉に重みがあった。
彼は自分が思っていたよりも深刻な事態に足を突っ込んでいることを実感した。
村人たちの恐れは、その背景に根付いた不安と怨念から来ていたのだ。

「無理だ、逃げられない!」小林は絶望的な顔をしながら、和也を見つめた。
「君もその血が流れている場所に近づくな。呪いに取り憑かれるぞ。」

和也は恐怖に駆られ、目を逸らしたい衝動に駆られたが、何とか立ち上がり小林に背を向けて神社を後にした。
しかし、ふと振り返ったその時、突然周囲が暗くなり、目の前の小林の姿は消え、木の根元には赤い血のような染みが一層鮮明に現れていた。

その後、和也は村へ戻り、その日の出来事を誰にも話そうとはしなかった。
血の跡はその後も村に残り、誰も近づかない場所となった。
村人たちが語る噂によれば、和也はその後も時折小林の声を耳にすることがあったという。

誰もが忘れようとする過去と向き合うことは、実はとても難しいことなのだ。
和也はそのことを胸に刻み込み、静かに日常を過ごすことを選んだ。
だが、村に流れる血の呪いは、彼の心の中でも静かに生き続けているのだった。

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