「蛇神の囁き」

ある小さな村には、古くから伝わる伝説があった。
それは、蛇にまつわる恐ろしい話である。
村の外れには、薄暗い森が広がっており、その奥深くには、封じられた神秘の祭壇が存在すると言われていた。
祭壇は、かつて村人たちが蛇神を祀った場所であり、長い間、人々の目からは隠されていた。
しかし、その伝説を知る者は少なくなり、やがて忘れ去られようとしていた。

その村に住む少年、翔太は、母親から聞いたこの伝説に興味を抱いていた。
ある晩、友達と肝試しをする際、翔太は森に足を踏み入れることを決意した。
彼の友人たちは怖がっていたが、翔太はその場所の真実を知りたいという好奇心に駆られていた。

暗い森の中を進むうち、翔太はどんどんその場の雰囲気に圧倒されていった。
彼が伝説の祭壇を探して歩いていると、突然、何かに引き寄せられるように道を外れた。
板で作られた小道を進むと、彼はついに祭壇を見つけた。
穢れた石でできた祭壇の上には、古びた巻物が置かれていた。

その瞬間、翔太は耳元で微かにささやく声を聞いた。
「解き放て…」。
彼は恐る恐る巻物を手に取ると、目の前に浮かび上がった文字に息を飲んだ。
「還る者、蛇の姿を持つ者にして、封じられし時を解け」とあった。
どこか異様な雰囲気を醸し出すその文言に、翔太の心臓は早鐘のように打ち始めた。

翔太は、巻物に記された祭壇に触れると、目の前が真っ白になった。
次の瞬間、どこか別の世界に引き込まれる感覚に襲われた。
視界が戻った時、彼は村の中心に立っていたが、何かが違っていた。
周囲の風景は美しいものから不気味なものへと変わっており、村人たちは翔太を恐れるように見つめていた。
彼の体に異変が起こっていた。

「翔太!」と呼ぶ声が遠くから聞こえた。
その声は、彼の友人の智也だった。
智也は恐怖に怯えながら、翔太に近づいてきた。
しかし、その時、翔太は自分の手元を見ると、そこには蛇のうろこが生えていることに気づいた。
彼は驚き、恐れに駆られたが、同時に心の奥深くから、不気味な力が湧き上がってくるのを感じた。
「還る者」としての役割を果たさなければならないのだ。

翔太は、村人たちを見回しながら、自分の意思とは裏腹に、彼らに向かって手を差し伸べた。
村人の恐れは増すばかりだった。
「翔太、何が起こっているんだ!」智也が叫んだ。
しかし、翔太は自分の意識が徐々に蛇神の意志に飲み込まれつつあることを感じていた。

その夜、村全体は悪夢に囚われた。
翔太が蛇の神となり、この村の運命を握る者として甦ったのだ。
彼はこの村を守るために封じられた存在であり、かつての呪縛から解き放たれたことを知っていた。
しかし、その代償は人間としての自分を失うことだった。
翔太の心の中で、彼の意志と蛇神の意志が戦っている。

数日後、智也は翔太を見つけ、彼を助けようと決意した。
彼は村人たちを引き連れ、祭壇の元へ向かうことにした。
「翔太を返して!」と叫びながら、智也は神聖な巻物を祭壇に置いた。
村人たちは、大声で祈りを捧げた。
「翔太を、戻してくれ!」

その祈りが響き渡る中、再び翔太の意識が戻ってきた。
しかし、彼はもう元の身体に帰れないことを理解していた。
そして、今度は彼がこの村を守るための蛇神として存在することを選んだ。
翔太は、自らの心を封印し、静かに仲間たちに告げた。
「もう、大丈夫だ。」

彼の言葉は、村の静けさを包み込んだ。
村人たちは、翔太の選択を受け入れ、彼の意志を尊重した。
その夜、村に再び静寂が訪れ、翔太は永遠にその場所で、蛇神として守り続けるのだった。

タイトルとURLをコピーしました