リは、北海道の小さな町に住む普通の大学生だった。
彼女は友人の恵美と一緒に、週末を利用して帯という名の地元の観光スポットに肝試しに行くことを決めた。
その場所はかつて多くの人々が集い、賑やかな祭りが行われたところだが、今では忘れ去られたような静寂が漂っていた。
帯には「行く人が生きて帰れない」という伝説があった。
昔、祭りの最中に起こったという悲劇が語り継がれ、その場所は人々から避けられていた。
リたちは、その伝説の真相を確かめたくなり、夜の帳が下りる頃にその地へと足を運んだ。
到着した彼女たちの周りには、月明かりの下でかすかに揺れる木々の影が映し出され、かすかな風が冷たさを感じさせた。
不安を抱えながらも、二人は「こわくない、ただの噂だ」と自分たちに言い聞かせ進んでいった。
帯の中で散らばる祭りの跡は、時が経った今、ただの静けさを醸し出しているだけのように見えた。
しかし、その瞬間、リはなにか不気味な温度の変化を感じ取った。
周囲の空気が重く、まるで誰かが見ているような感覚が押し寄せてきた。
「ねぇ、何かおかしいと思わない?」と恵美が不安そうに言った。
リはその言葉に頷き、少しずつ緊張が高まっていくのを感じた。
「生と死が交錯する場所だって話だし、行かない方がいいかも」と恵美が言うと、リは「大丈夫、何も起きないよ。私たちが行けば、少しは真相が分かるかもしれないから」と言い返した。
しかし、彼女たちの胸には恐れが広がり始めていた。
不意に、周囲の気温が急激に下がり、息が白くなった。
その時、ふと目の前に姿を現した影があった。
それは、衣装をまとった人影だったが、その顔はぼんやりとしており、目の部分には穴が空いているように見えた。
リはその場に立ち尽くし、恵美も目を大きく見開いた。
「き、きっと何かの間違いだよ…」と呟いた瞬間、その影が彼女たちに近づいてきた。
「生きとし生けるものよ、何故ここに来た?」影は低い声で話しかけてきた。
リは心臓がバクバクと音を立てていた。
なんとか気持ちを落ち着けようとしながら、そして恐怖心を抱えながらリは答えようとしたが、言葉が出なかった。
影はさらに言った。
「私はここで行き続けている。生きている者たちに復讐を果たすために…」その言葉にリと恵美は震え上がった。
リはその瞬間、伝説の真実が目の前にいることを理解した。
彼女たちが聞いた話は決して噂ではなく、実際にこの場所で何か恐ろしいことが起こったのだと。
「お願い、私たちはただの肝試しに来ただけです。あなたのことを知りたかったわけじゃない!」そう叫んだリに、影は冷酷に言った。
「行く人が生きて帰れない。それを理解したのか?」二人は恐怖から逃げようとしたが、影の存在に阻まれて動けなかった。
そして、リは影が自分に向かって手を伸ばすのを見た。
その瞬間、恵美が「逃げよう!」と叫び、二人は一斉に廃墟から飛び出した。
しかし、廊下のようになっている場所は出口を見つけられず、まるで迷路のように感じられた。
息が上がり、目の前では影が必要なだけ近づいてきた。
「私の名誉を返せ!私の復讐を果たす者よ!」影の声はどんどん迫り、リはその言葉を耳にした瞬間、自分たちも何かを見捨ててきたのだと気づいた。
逃げることと共に、それが今では無意味であることを悟ってしまったのだ。
結局、リと恵美は行方不明となった。
帯では、その後も果たされぬ復讐の念が響き渡り、多くの人々が再びこの地を訪れないようになった。
「生のために選ばれることはない」と語り継がれる彼女たちの話は、誰の耳にも届くことがなかった。