あの日、晴れた秋の午後、さやかは友人たちと共に、古い廃墟のある山道を歩いていた。
廃墟の噂を聞いた友人たちが興味本位で行こうと言ったのだが、さやかはどこか気が引けていた。
聞いていたのは、そこにはかつて不明の少女が住んでいたという言い伝えだった。
その少女は自らの命を絶ち、今なおその場所を蔽っているという。
廃墟に着くと、さやかは不気味な静けさに心がざわついた。
しかし、友人たちは興奮し、早速中に入って行く。
「大丈夫、大丈夫。何も起こらないよ!」と強がる友人の声が響く。
さやかはしばらくためらった後、背中を押されるようにその後を追った。
中に入ると空気はひんやりとしており、光がほとんど差し込まない。
ぼろぼろになった壁や床が、彼女たちの足音を静かに吸い込んでいった。
光の届かない薄暗い部屋に辿り着くと、友人の一人が小さな窓から外を覗き込んでいた。
「ここからの景色、すごく綺麗だよ!」と声を上げる。
それに合わせて、他の友人たちも窓の方に集まった。
その瞬間、さやかは背後から何かを感じた。
振り返ると、そこには人影が立っていた。
彼女の心臓が大きく跳ね上がる。
影は白い服を着た少女のように見え、どこか悲しげな表情を浮かべていた。
彼女は瞬きすれば影は消えそうな気がして、目を離すことができなかった。
その間にも友人たちの無邪気な笑い声が響いている。
「どうしたの?」友人の一人がさやかの様子に気づいた。
さやかは何も答えられず、ただ口を開けたままその影を指差したが、友人たちは何も見えないようだった。
「何もいないよ、さやか。ただの影でしょ?早く外に行こう!」と笑われた。
彼女は一瞬怖気づいたが、影が消えなかったため、急いでその部屋を出て行った。
その後、友人たちと廃墟を探索するも、さやかの心にはいつもあの少女の影が、視界の端でちらついていた。
さらに不安を感じながらも、彼女はみんなと一緒に廃墟内を進む。
しかし、奇妙なことに気づいたのは、彼女だけだった。
影は常に彼女の近くにいて、時折彼女の顔をじっと見つめているのだ。
「ねえ、さやか、何か考えてる?」と友人の一人が問いかけてきた。
さやかは顔をしかめ、強がって「何でもないよ」と答える。
しかし、その瞬間、彼女の周りの景色が揺らいだように感じた。
心の中で居心地の悪さが立ち込めていた。
友人たちが外に出ようとするのと同時に、さやかは影が「写」と共に姿を現すのを見た。
影は彼女の周りに集まって、まるで一枚の写真が現れるように、その場で静止しているように思えた。
彼女は友人たちに「行こう!」と叫び、皆を強引に引っ張るように外へと急いだ。
外に出てほっとしたのも束の間、振り返ると廃墟の中に彼女を呼ぶように影が立っていた。
恐怖心が心を支配し、さやかはその影が何を訴えかけているのか理解できなかった。
そしてその日の帰り道、彼女は何度も振り返り、影が後を追ってくるような気がして仕方がなかった。
数日後、さやかは友人たちとともに集まった際、ふと彼女はあの廃墟のことを思い出した。
「廃墟に行った後、夢にあの子が出てきた」と告げると、友人たちは驚いて目を見開いた。
「どうしたの?」と訊ねると、彼女は続けた。
「影が私を見つめていて、何かを訴えているの。私も勇気を出して、もう一度行こうと思ってる。」
友人たちの反対を押し切り、さやかは再び廃墟へ向かう決意をした。
しかし、その道のりは彼女の心に重くのしかかり、次第に彼女自身が影に蔽われる運命を感じ始めていた。
その日以来、同じ夢を繰り返し見るようになった。
夜になると、再びあの少女が彼女を呼び続けていた。
さやかが一歩踏み出した瞬間、影はどこまでも広がり、彼女の心を昇華させていった……。