ある静かな町のはずれに、長い間使われていない倉があった。
その倉は、かつて酒造りを行っていた家族が所有していたが、数十年前にその家族が移り住んだため、ただの廃屋と化してしまった。
倉の中は、埃だらけの梁や、薄暗い隅に積もった古びた道具が散乱している。
人々はその倉には近づかないことにしていたが、いくつかの噂だけは耳にしていた。
その噂は、「倉の中には清(きよし)という男の霊がいる」というものだった。
清は倉の主で、酒造りの腕前は一流だったが、ある事故によって若くして命を落としたと言われている。
彼は、自分の作り上げた酒が蔽(おお)われ、誰の目にも触れられなくなったことを嘆いているのだという。
ある日、大学のサークル仲間の中田(なかた)、佐々木(ささき)、そして小林(こばやし)が肝試しをすることに決めた。
彼らは「倉の克服証明」を得るため、倉の中に足を踏み入れることにした。
夜になって、月明かりの下、倉に向かう彼らの心臓はドキドキと音をたてていた。
「本当に入るのか? 怖いよ。」小林が怯えた声を漏らした。
「大丈夫だよ。肝試しなんだから、怖がってちゃ楽しくない。」中田が明るく返した。
3人が倉にたどり着くと、扉はきしむ音を立て、まるで誰かが彼らを迎え入れるかのようだった。
彼らは懐中電灯を持って、中に足を踏み入れた。
その瞬間、ひんやりとした空気が彼らを包み込む。
先に進むにつれ、倉の中の古い道具や木箱がある。
これが清の作った酒の道具であったのなら、どれほどの年月が経っているのだろう。
奥に進んでいくと、何かの気配を感じた。
息を潜めて進むと、突然、壁際に薄い影が現れた。
それは、清の霊だった。
彼は古い衣服をまとい、穏やかな表情を浮かべているが、どこか寂しげだった。
「私は清。ここに留まる宿命なのだ。」彼の声は耳に心地よく響いた。
「え? あなたが清さんですか?」中田が恐る恐る尋ねた。
「そうだ。私はこの倉で酒を造り続けたかった。しかし、私の酒は人々の心から蔽われ、誰の目にも触れられることはなかった。」清は静かに告げる。
「でも、私たちがここに来たことで、あなたの酒のことを知ることができました。」佐々木が思いを伝えた。
清は微笑んだ。
「それなら、始まりがある。私の酒はきっと、あなたたちによって再び光輝くことができるだろう。でも、注意が必要だ。私は蔽(おお)われることには耐えられない。酒の力を知る者が、私を解き放ってくれることを待っているのだ。」
その時、倉の空気が徐々に変わり、彼らはその場から逃げ出した。
外に出た瞬間、彼らの背後で大きな音が響き、倉のドアがバタンと閉じた。
それから数日後、その倉の近くで見かけた人々が不思議な光景を目にした。
それは、暗い夜空の中に光る酒瓶の数々だった。
清は、その酒を求めて、彼らに道を示し続けた。
倉は、清の願いを叶える場として再び、人々の記憶に刻まれることになる。
しかし、倉の中には彼の存在が蔽(おお)われないよう、注意を怠らずに進むことが肝心であった。