ある秋の晩、山深い村に住む佐藤健一は、友人たちと一緒にキャンプに出かけることにした。
彼らは、樹海の奥深くにある「落ち葉の湖」と呼ばれる神秘的な場所を目指していた。
この湖は、秋になると色とりどりの落ち葉が水面に映り、美しい景色を楽しむことができるという。
しかし、村人たちはその湖には古くからの封印があると言い伝えており、近づくことを禁忌としていた。
健一は、友人たちと共に禁忌を破る決意を固め、夜の帳が下る頃に湖に到着する。
月明かりが湖を照らし、静寂の中に幻想的な光景が広がっていた。
彼らは興奮し、ビデオカメラを回し始め、湖の美しさを記録したり、笑い合ったりしていた。
しかし、健一だけはどこか引っかかる思いを抱えていた。
「本当に来てよかったのか?」彼は心の奥で警告の声が響くのを感じていた。
友人たちが楽しむ姿を見ながら、彼は祖母が昔語った話を思い出した。
「この湖には、昔々、ある者たちが呪いを受けて封じられた魂がいる。ただし、その存在を忘れた者たちには何も起こらない…だが、触れてはいけない」と。
夜が深くなるにつれ、健一の不安は増していった。
友人たちは湖の周りでキャンプファイヤーを囲み、飲み食いを楽しんでいたが、その時、湖が不気味にざわめく音を立て始める。
まるで湖が何かを不満に思っているかのようだった。
健一は心臓が高鳴るのを感じ、友人たちに冷静さを保つように言ったが、仲間たちは笑い飛ばすばかりだった。
「健一、どんどん楽しまなきゃ!」彼の友人である田中が冗談交じりに言った。
すると、突然湖の水面が光りだし、彼らの足元にある落ち葉が吸い込まれていくように見えた。
恐怖が健一を襲う。
彼は足を止めて湖の方向を見つめた。
その瞬間、湖が黒い影に覆われ、何かが水面から這い出てくるような気配を感じた。
「みんな、やめよう!」健一は叫んだが、皆は彼の言葉を無視して、目の前の光景に魅了されていた。
光は強くなり、恐ろしい形をした影が次第に浮かび上がってくる。
彼らの目には、口を開けて叫ぶような形をした影だった。
恐怖と混乱の中で、健一は思い出した。
祖母が言っていた言葉が頭をよぎる。
「決して触れてはいけない。」
『触れてはいけない』その言葉が、ヘドのように彼の心の中で響きわたった。
健一は自分の心が引き裂かれるような思いに駆られた。
彼の友人の一人が波紋の中に引き込まれ、一瞬のうちに消え去った。
健一は、何かを封じているものが解き放たれたのだと悟った。
彼らが湖に近づくと、母なる自然が抗い、目覚めてしまう。
健一は声を震わせながら、全力で友人たちを引き離そうと試みたが、彼らはまるで魔法にかかったかのように、影に引き寄せられていた。
友人たちの目は、うつろで、無気力だった。
彼は絶望的に友人たちを呼ぶが、誰も応えはしなかった。
ついに、健一は湖を背にし、仲間を助けるためには自らも封印を破る覚悟を決めた。
「皆で逃げよう!」彼は力いっぱい叫ぶ。
しかし、その瞬間、湖の中から力強い水の竜巻が起こり、彼を巻き込もうと迫った。
彼は全力で走り出したが、仲間を背にして逃げるという選択は心に重苦しい負担を与えた。
健一は湖を後にし、村に戻り、これまでの出来事を伝えようとするが誰も彼を信じなかった。
数日後、彼は再び夢の中であの湖を見つめていた。
湖の底からは、無数の影が彼を見上げていた。
彼の心の中には、失われた友人たちの声が響いていた。
「助けて…私たちを忘れてはいけない…」
健一は、その晩が彼の運命を変え、「落ち葉の湖」の秘密を深い暗闇に封じこんだまま、いつまでも心に影を残すこととなった。