町の外れに位置する古びた神社、その名は「落神社」。
その神社には、今から何百年も前に「落ちた者」が祀られているという言い伝えがあった。
この神社があるのは、古い山の麓で、周囲の人々からは避けられる場所だった。
特に、日が沈む頃になると、誰も近寄りたがらなかった。
高校生の健太は、友人たちと共にこの神社の存在を聞きつけ、肝試しをすることに決めた。
街の噂話に興味津々で、夜の神社へ向かうことにした。
健太はいつものように陽気で、楽しいことを求める性格。
しかし、友人の翔太はどこか不安そうにしていた。
「本当に行くの?あの神社には落ちた者がいるっていうし、呪われた場所なんだろ?行く必要なんてないんじゃない?」翔太の言葉に、健太は笑って返した。
「大丈夫だって。そんなのただの昔話さ。少しのスリルが欲しいだけなんだ。ほら、みんなも行くって!」
他の友人たちも興味をそそられ、結局、4人は夜の神社へと向かった。
月明かりの下、神社の周りは静まり返り、森の中からは不気味な風が吹き抜ける。
彼らが境内に足を踏み入れると、背筋がゾクッとする感覚が襲ってきた。
「ここが落神社か…」健太が呟くと、翔太は一歩後ろに下がった。
「やっぱり帰ろうよ。この空気、なんかおかしいよ。」
その時、空気が一瞬重くなり、神社の奥から微かに声が聞こえた。
「帰れ…帰れ…」その声は子供のようにか細く、彼らの心に恐怖を植え付けた。
健太は意気揚々と神社の奥へ進んでいったが、翔太は踵を返して逃げようとした。
「待って!何が起こっても大丈夫だよ!」健太の叫びも虚しく、翔太は神社の境内から逃げ出す。
仲間を置いていくのが不安な健太だったが、好奇心が勝り、一緒に進むことに決めた。
神社の中央には古い社があり、そこには「落ちた者」のお札が貼られた一本の木があった。
健太はその木に触れようと手を伸ばした瞬間、急に周囲が暗くなり、胸が締め付けられるような重圧を感じた。
その瞬間、彼の視界が暗転した。
目が覚めると、健太は再び神社の境内にいたが、友人たちの姿はどこにも見当たらない。
「翔太…?」彼は不安になり、大声で呼びかけた。
しかし、返事はない。
どれだけ呼び続けても、声は虚しく響くだけだった。
その時、背後に誰かが近づいてくる気配を感じた。
振り返ると、そこには白い服を着た少女が立っていた。
彼女の目はどこか悲しげで、彼女は耳元で囁いた。
「私も、落ちてしまった…」彼女の声は小さく、まるで絶望に満ちた響きを持っていた。
健太は恐怖にかられながら、逃げようとしたが、彼女は彼の手を掴んで離さなかった。
「あなたも、帰れなくなってしまうよ。」その言葉は、彼の心に深く刻み込まれた。
少女の手は冷たく、まるで彼を呪縛しているかのように思えた。
彼は必死にもがいたが、彼女の力には逆らえなかった。
徐々に意識が遠のいていく中、彼は思い出した。
彼女が言った「落ちた者」という言葉。
そこに留まった者は、永遠にこの場所から帰れないということを。
溢れる恐怖から逃れられないまま、彼は少女の目を見つめた。
彼が無邪気に肝試しに来たことを悔いる瞬間、周囲の景色が急激に変わった。
パッと明るくなり、次の瞬間、彼は見知らぬ場所に立っていた。
“絶望の間”で、彼はただ一人、呪われし者となり、かつての友人たちの名を呼び続けることとなった。
町の人々はその後も神社を恐れ、近づくことはなかったが、時折、無情に響く声が森を越えて聞こえ来ることがあった。