ある静かな午後、大学生の桜井恵美は、友人たちと一緒に茶道部の活動に参加することになった。
彼女の大学には、伝統的な茶道の精神を重んじる教授がいて、その教えを受けることができるのは幸運だった。
茶道の美しさや静けさに心引かれ、恵美はその魅力にすっかり取り憑かれていた。
その日の練習後、恵美は一人で茶室に残り、静かな時間を楽しむことにした。
薄暗い茶室の中では、静寂が漂い、外の世界とは切り離されたような感覚があった。
恵美はお茶を点てる道具や茶碗を丁寧に片付けながら、教授に教わったことを思い返した。
そんな時、恵美はふと不思議なことに気が付いた。
茶室の隅に小さな木箱が置いてあった。
興味を引かれた彼女は、その箱を手に取り、開けてみることにした。
すると、中には古びた巻物が収められていた。
まるで何か特別な秘密が隠されているかのようだった。
巻物を広げると、そこには美しい漢字で「永遠」という文字が書かれていた。
しかし、その文字の下には、何か異様なことが記されていた。
「この書に触れた者、その心は永遠に茶の中に閉じ込められ、出られなくなる」と警告する文が続いていた。
興味と同時に、不安が胸の奥に渦巻いたが、恵美はその書を無視して、もう一度文字を見つめた。
その瞬間、巻物に描かれた文字が不気味に光り出し、茶室の空気が一変した。
冷たい風が吹き抜け、恵美の心に恐怖感が忍び寄ってきた。
彼女は慌てて巻物を元に戻そうとしたが、何かに引き止められているようで、手が動かなかった。
茶室の壁が揺れ、彼女はその中に何か異様な存在を感じた。
「恵美……」と、低く響く声が彼女の耳に届いた。
それはまるで茶の香りを纏った音色のようだった。
実体のない声は次第に鮮明になり、彼女の目の前に影のような姿が現れた。
それは、長い髪を持った女性で、まるで支配するかのように恵美に近づいてきた。
「私の名はカ。永遠にここに閉じ込められた者よ。あなたも同じ運命を辿ろうとしているのか?」影は言った。
恵美は恐怖に駆られ、言葉を返すことができなかった。
彼女が手にしていた巻物の力が、彼女をこの場に留めようとしているように感じた。
「私を助けてくれるのか?」恵美は無意識に問いかけた。
カは微笑み、「あなたの中にも、私の思いが宿っている。滅びゆく存在の証を持つ者よ。今、選択を迫られているのだ」と述べた。
恵美は自らの心の奥底に、茶道への愛情と共に、永遠の存在の恐怖を感じ取った。
自分がこのまま茶の中に閉じ込められるのか、あるいは逃れられるのか。
彼女は心の中で葛藤しながら、何とか巻物を放そうとした。
しかし、その瞬間、茶室全体が暗闇に飲み込まれ、彼女は一瞬でその場から引き離されたような感覚を覚えた。
暗闇の中で、恵美は過去の自分を思い出す。
そのすべてが、茶の世界の中で永遠に滅んでしまうかもしれない、という恐れに包まれた。
そして、彼女はついに心を決めた。
「私は帰る、どんなことがあっても!」と叫び、力を振り絞って巻物を投げ捨てた。
すると、影は彼女の目の前で消え失せ、茶室の穏やかな空気が帰ってきた。
しかし、恵美の心には深い傷が残った。
翌日、彼女は茶道部の仲間に普段通りに振る舞うことができた。
しかし、心の中にはあの女性の声が響き続け、彼女の存在に怯えた。
恵美はもう茶には触れないと決意し、あの日の出来事を忘れようとしていた。
だが、時折、茶の香りが漂い、彼女の心をむしばんでいく。
その香りは、永遠に残る影として、彼女を捕らえ続けるのだった。