「舞台の裏側に潜む影」

静かな田舎町にある古びた公民館。
この町では毎年、夏の終わりに「夜の演劇祭」が開催されるのが恒例だった。
町の子どもたちや若者たちは、この祭りに向けて演劇の練習に励む。
しかし、その公民館の舞台には、誰も触れたくない伝説があった。

ある日、志田希美という女子高生が、友人の橋本友和とともに公民館での練習に参加することになった。
希美は演技が大好きで、友和も彼女に付き合う形で参加していた。
二人はこの祭りを成功させるために、一生懸命に芝居の練習を重ねていた。

その夜、彼らは練習を終えた後、ふと舞台の裏にある古い木箱が目に留まった。
友和が興味本位でその木箱を開けると、中には薄汚れた衣装や古い小道具が入っていた。
希美はその中に埋もれていた一枚の紙を見つけた。
それは、かつて公民館で上演された演劇の台本の断片だったが、モヤのかかった文字で「その舞台を離れられない」と記されていた。

「なんだこれ、変なこと書いてあるね。」友和はその紙を読み上げ、笑ってみせた。
だが、希美はなぜか不安な気持ちに包まれた。
この舞台には何かがある。
彼女の直感がそう告げていた。

数日後、いよいよ演劇祭の日が訪れた。
希美と友和、そして他の仲間たちも意気込んで舞台に立った。
公演が始まり、彼らは自分たちの演技に集中するあまり、舞台や公民館の背後に潜む恐怖を忘れていた。
しかし、希美の視線が舞台の端に行くと、何かが彼女の心を締め付けるような感じがした。

演技が進むにつれ、急に冷たい風が吹き抜け、舞台上の雰囲気が不気味に変わり始めた。
「希美、どうしたの?」友和が心配そうに声をかけた。
希美は答えた。
「何かおかしいの。舞台で感じる空気が、しっくりこない」と言った瞬間、舞台の後ろからかすかな声が響いた。
「私を放して…」

希美はその声が何かただの演技のセリフではないことに気づいた。
彼女は仲間を振り返ると、彼らもまた、驚きの表情で舞台の奥を見つめていた。
恐怖が走り、仲間たちの顔色が変わっていく。

演技が進むうちに、奇妙な現象が彼らを襲った。
舞台の周りにいる人々の足元が砂のように小さな粒子に変化し、まるで彼らを舞台に縛りつけようとしているかのようだった。
「友和!みんな、舞台から離れて!」希美は大声で叫んだが、仲間たちはまるで動けない様子で、目をうつろにしていた。

「放せ、放せ…私をここから出して…」声が再び響く。
希美は恐れの中で立ち尽くしながらも、不思議な力に引き寄せられていく。
友和の手を掴むと、彼にも気づいてもらおうとした。
「友和、目を覚まして!」

その瞬間、友和は希美の声を聞いて我に返った。
「希美、何が起こってるんだ!」彼は焦りながら周囲を見回したが、彼らの仲間はまだ舞台の砂に沈むように動けなかった。

「これ、私たちが見なかったことにしようとした伝説のせいなの?」希美は絶望的な眼差しで言った。
急に舞台中央に蒼白な影が現れ、彼女たちの目の前でその姿を定めた。

影はかつてこの舞台で演じた少女のようで、可愛らしい衣装をまとっていたが、その目には哀しみが宿っていた。
「助けて…私をこの舞台から解放して。」彼女の声は、まるで真実の痛みを伴うものだった。

希美は心の奥で決意を固めた。
「私たちには仲間がいる。必ず、この恐怖を乗り越えよう!」青白い影と呼ばれる存在に向かって、希美と友和は歌い出した。
仲間たちの懸命な努力で、声が徐々に大きくなり、影に向かって出口を開くように叫び続けた。

その瞬間、影は僅かに微笑み、視線を希美に向けた。
「希望があれば、私を放すことができる。」その言葉を合図に、希美は仲間たちと共に声を合わせ、絆を確かめ合った。

周囲の空気が変わり、冷たい風が舞台上を吹き抜けた。
仲間たちが力を合わせることで、影は少しずつ薄れていった。
その瞬間、舞台は静まり返り、彼らの目の前から影は消え去った。

公演は無事に終わったが、希美と友和はその後も舞台の出来事を忘れることはできなかった。
公民館の舞台は、彼らの心の中で特別な場所となった。
そして、彼らはいつまでもその瞬間を忘れず、希望を持ち続けることを決意した。

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