「義の影を背負って」

静寂に包まれた田舎の路。
夜の帳が下りると辺りは漆黒に染まり、月明かりが地面を淡い光で照らしていた。
そんな路を、登校途中の高校生、翔太は一人で歩いていた。
日中、友人たちと賑やかに過ごしていたせいか、彼はこの静けさに少しばかりの恐怖を感じていた。

翔太の目の前を、何かが横切った。
影のようなものは一瞬で消え、心臓がドキリと跳ねた。
そこに何かいるのではないかと身を縮め、冷たい汗が額を伝って流れる。
今思うと、ただの気のせいだったかもしれない。
しかし、翔太は感じていた。
「何か」とは、彼の背後に存在するものの気配。

その夜も他所で怨霊や霊の話が囁かれる中、彼の心を支配するのは不気味な静寂だった。
翔太は午後の授業中にも怖い話を聞いて、どこかビクビクしていた。
特に猟奇的な現象に興味を惹かれたわけではなかった。
ただ、彼の日常を普通に戻したいだけだった。

歩き続ける翔太の耳元に、かすかな声が聞こえた。
「義のために…」それは女性の低い声で、どこか懐かしさを帯びていた。
「何かを求めているのか?」そんな声が頭に響き、彼は立ち止まった。
周りを見渡しても何も見当たらない。
恐れに負けず、衝動的に声の方向に向き直った。

「義」という言葉が彼を苛立たせる。
何の義が、彼に何を求めているのだろう。
気のせいかと思い、また歩き出すが、再度、彼の心を揺さぶるような声が聞こえた。
「守ってほしい…私の義を…」

翔太の目の前に突然浮かび上がったのは、青白い光をまとった女性の霊だった。
彼女は悲しげな表情で翔太を見つめ、何かを訴えかけてきた。
彼女はそこに居続ける理由があるように思えた。
翔太は恐怖心よりも、彼女の無念に心が引き寄せられた。

驚きと共に話しかける。
「何を望んでいるんだ?どうか教えてくれ!」その瞬間、彼は一瞬身体が凍りつくような気持ちを味わった。
霊の周りにはまとわりつくような淡い光があり、彼の心に直接訴えかけるような雰囲気が漂っていた。

「私の弟…救って…彼はもういないの、私が守ってあげられなかった。私のせいで…」悲しみを抱えた霊の目は、翔太の胸を突くような重さを持っていた。
義務感、守るべきものを失った悲しみ。
それに耐えかねた翔太は、彼女の言葉に深く共感した。

「私はお前の力になりたい。何をすればいいのか教えてくれ。」翔太の言葉に霊は微かに微笑み、視線を彼の心に注いだ。
「私の義、そして私の存在を、消えないようにしてほしい。弟のために…。」

翔太はその場にひざまずくと、強く思った。
彼女の思いを無駄にしないために自分ができることをやると。
彼女の願いを受け止め、翔太は誓った。
義を忘れず、人の繋がりを大事にしようと。

その夜、翔太は深夜の路を歩きながら、陽の光が降り注ぐ日々に戻ることを決意した。
そして、彼の心の中に彼女の存在を刻みこみ、義務感とともに歩み続けることを誓った。
翔太と霊との約束は、これからの彼の日常を変える大きな力となった。

道は続く。
義を背負った翔太は、自らの道を照らす光となることで、人の思いを繋ぎ合わせる役割を果たしていった。
どこか遠い路の終わりには、彼の心と彼女の願いが一つになっている未来を信じていた。

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