豪の小さな村には、古くから語り継がれる奇妙な伝説があった。
それは「義の井戸」と呼ばれる、村の中心にある井戸にまつわる物語だ。
この井戸は、村人たちにとって特別な場所であり、特に「義」の感情が試される場所だと言われていた。
ある晩、村に村外れから移り住んできた青年、亮がいた。
彼は心優しい性格で、他人の手助けをすることにやりがいを感じていた。
しかし、亮は自身の運命を信じられず、何を望んでいるのか分からないまま日々を過ごしていた。
そんな時、村人から「義の井戸」の話を聞いた彼は、強い興味を抱くようになった。
村人たちは「義の井戸」に一度近づいてしまうと、何かを試されることになると警告した。
特に、無償の愛や助けが求められた場合、その人物が何を選ぶのかによって運命が決まるというのだ。
亮は、亡くなった親の名誉のためにも、この井戸の前で自分の運命を試そうと考えた。
ある夜、満月の光が村を照らす中、亮は意を決して「義の井戸」へと足を運んだ。
周囲は異常な静けさに包まれており、彼の心は期待と不安で高鳴っていた。
井戸の縁に立ち、彼は深呼吸して水面を覗き込む。
すると、突然水面が揺れ始め、どこからともなく低い声が響いてきた。
「誰がここに来たのか、何を望むのだ?」
亮は驚きながらも、思わず答えた。
「私は自分の運命を知りたい。ただ、それだけです。」すると声は続けた。
「運命は、あなたの選択によって決まる。義を持っている者は、その力を示すがよい。」
亮は何をすればよいのか分からず、しばらく考え込んだ。
するとふと、村で病に伏せている老夫婦の姿が思い浮かぶ。
彼らのために何かをしてあげたいと心から思う自分がいた。
亮は勇気を出して叫んだ。
「私は、村の老夫婦を助けるためにここに来ました!」その瞬間、水面が再び揺れ、井戸の奥から不思議な光が現れた。
「お前の気持ち、確かに受け取った。しかし、一つの選択が待っている。この井戸から出るものは、あなたの義を試す存在となる。」
亮は自分の決断が試されるのだと理解した。
すると、井戸の水面が静まると、彼の目の前に一人の女性の姿が現れた。
それは亮の母親であった。
彼女は優しい笑顔を浮かべていたが、その目には深い悲しみが宿っていた。
「亮、私を救ってほしい。」
亮の心は揺れ動いた。
母を救うためには、村の老夫婦に手を差し伸べることができない。
彼は母を見つめ、決心を固めた。
「申し訳ありませんが、私は母を助けることができません。私の心は、老夫婦を助けることに向いています。」
その時、母の表情が変わった。
悲しみから喜びへと変わり、彼女は微笑んだ。
「義の心、素晴らしい。あなたの決断は、運命を変えるのだ。」
井戸の周囲が眩い光に包まれ、亮はその場から意識を失った。
気がついた時、彼は村の中央に立っていた。
目の前には、老夫婦が待っていた。
彼は自分の選択が正しかったと感じ、村の人々と共に彼らを助けることに全力を尽くした。
数日後、亮は再び「義の井戸」を訪ねた。
水面には静かな波が立っているだけだったが、果たして彼の選択が本当の運命を変えたかどうかは分からなかった。
それでも、心には満ち足りた感情が残り続けた。
義を果たすことによって、初めて自分の望む未来へと歩み出せたのだ。
井戸は彼に、「義」という名の力を授けてくれたのだった。