夏の終わり、大学の秋休みに入ってから、雅也は友人たちと肝試しを計画した。
ちょうどそのころ、彼の友人である恵美が、地元の古い神社にまつわる不気味な話を持ち出した。
その神社はかつて村の中心的な存在だったが、今では廃れ、朽ちた鳥居だけが残されていた。
そして、その周辺では、夜になると奇妙な現象が起こると言われていた。
特に、月明かりの下で奇妙な声が聞こえるという噂があった。
普段は怖いもの知らずの雅也だが、恵美の話を聞くうちに少し不安になった。
けれども、皆が興味を持っているからには参加しないわけにはいかない。
彼は仲間と共にその神社へ向かうことを決めた。
神社に着くと、少しづつ日が暮れ、空が薄暗くなってきた。
木々の影が長く伸び、月が顔を覗かせる。
雅也たちは、神社の鳥居を通り抜け、社殿の裏手に回り込んだ。
そこで、恵美が言うには、特定のポイントに立つと、神社にまつわる言い伝えの声を耳にすることができるとのことだった。
「本当に聞こえるのかな…?」雅也が疑問を呈すると、友人たちは一斉にその場所に立つことを決めた。
彼らは円を作り、静かに目を閉じる。
そんな中、雅也は心臓が高鳴り、周囲の音が遠のくのを感じていた。
しばらくして、彼の耳に微かにかすれた声が届いた。
「助けて…」それは、女性の声のようだった。
驚いた雅也は目を開け、友人たちを見回したが、彼らは同じように驚いた表情で彼を見つめていた。
「聞こえた?」と恵美が言った。
全員が頷く。
どうやら、彼らは同時にその声を聞いたようだった。
恐怖と興奮が入り交じった中で、再びその声が響いた。
「ここにいる…助けて…」その声は一層近く、切実に感じられた。
思わず雅也は神社の奥へと足を進めた。
他の友人たちも不安を抱えながらも続いた。
二人の友人がその声の方向に進むにつれ、周りの空気が変わった。
何かが不気味に揺れている。
木々がさざめく音とともに、影がちらちらと動く。
奥に入るほど、不気味な気配が強まり、雅也の体が震えた。
やがて、小さな祠にたどり着いた。
そこには、古びた神様の像とともに、色あせた花束が備えられていた。
雅也はその前で立ち止まり、何かに引き寄せられるように感じた。
はっきりとした感覚で、彼は心の中でその女性の存在を感じた。
「私を助けて…」その声が再び耳元で響いた。
だが、友人たちが後ろから強い不安を訴える声が聞こえてきた。
周囲の暗闇が深く、何かが彼らを引き裂こうとしているような気がした。
雅也は心の底からその女性の思いに共鳴した。
「何をすればいいの?」思わず問いかける。
「私の名前を呼んで…」その瞬間、雅也の頭に浮かんだのは「美紀」という名前だった。
彼の口からその名が漏れ出し、空気が一瞬張り詰めた。
その瞬間、目の前の空間が歪み、悲しみに満ちた面影が現れた。
そこには、かつてこの土地で生きた女性の霊、美紀の姿があった。
彼女の瞳の奥には、永遠の悲しみが宿っていた。
「助けて…」その声が再び響き、雅也はその声に応え続けた。
しかし、彼の心は恐怖と心配でいっぱいだった。
「お前の名前を呼んでる…忘れないで!」彼女は懇願する。
しかし、周囲の暗闇が彼に迫るにつれて、彼女の姿は弱まっていく。
ついに、雅也は一歩下がると、連れの友人たちも恐怖に駆られて彼に近づいてきた。
「逃げよう!」そう叫ぶと、彼らは急いでその場を離れた。
美紀の叫び声が背後から響き渡り、彼らの心に重い感覚を植え付けた。
家に帰る道々、雅也は彼女の呼び声を忘れることができなかった。
結局、雅也はその後もしばらく美紀を忘れることができず、時折、心の中で彼女を呼び続けた。
彼らが逃げた夜、あの神社には、まだ美紀の声がこだまするような気がした。
彼女の思いが強く、雅也は彼女から逃れられないのだと、強く感じた。