村はずれに、廃屋となった家があった。
その家には、かつて幸せそうな家族が暮らしていたが、家が放置された理由は、彼らの命を奪った悲劇によるものであった。
数年前、家族の母、佳子は、美しい外見を持っていたが、その美貌に嫉妬する者が多く、次第に彼女は孤立していった。
その心の隙間を埋めるため、佳子は一層美を求め、夜な夜な外に出ては、禁忌を犯すようになったのだ。
ある晩、佳子は友人と称する女性の誘いを受け、霊的な儀式に参加することになった。
儀式は、美しさを維持するために、他者の命を求めるものだった。
佳子は恐れを感じつつも、自分の美を保つことに執着し、参加を決めてしまった。
この儀式は、彼女に強烈な力を与え、その姿はますます美しさを増していった。
しかし、その代償は非常に重かった。
佳子の美しさを妬む者たちの怒りに触れ、次第に陰湿な霊が彼女に取り憑くようになった。
彼女の両親、そして夫もまた、彼女が求め続ける美しさの影で、その命を奪われていったのだ。
佳子は自らの選択で家族を失い、一人ぼっちになった。
数年後、すっかり廃れてしまったその家に、大学生の直樹が友人たちと肝試しに訪れた。
彼は、佳子の噂を耳にし、半信半疑ながらもその家に足を踏み入れた。
室内は薄暗く、埃まみれの家具が静かに時の流れを感じさせていた。
直樹たちがリビングで談笑していると、見えない力が徐々に彼らの注意を引く。
窓の外で風が吹き荒れ、影がちらついて見えた。
「見て、あそこに誰かいる!」と友人が叫び、みんなが振り返った。
その瞬間、重苦しい空気が漂い始め、誰かの囁きが聞こえてきた。
「私の美しさを返して…」
恐怖に駆られた直樹は、その声の主を探し始める。
「美しいものは、命を奪う」と友人の一人が言い放った。
その言葉が効いたのか、直樹は佳子の姿を想像する。
彼女の美しさは一体何だったのか。
そして、それを望むあまり失った命は、どれほどのものだったのか。
廃屋の壁にかかった鏡に映る直樹の姿が、何かに取り憑かれているかのように歪み始める。
「私を見て…私を感じて」と囁く声は、まるで彼に迫ってくるかのようだった。
直樹は、逃げ出そうとしたが、足がすくんで動けなくなる。
そこに、徐々に佳子の姿が現れた。
美しさを保ちながらも、目の奥に深い闇を抱えた彼女は、直樹をじっと見つめていた。
「私の美しさが妬ましいのか?」彼女は独り言のように呟き、彼の心を掴んで離さなかった。
直樹は、佳子の地獄のような美しさに魅了される。
しかし、同時に彼女に取り憑かれる恐怖が迫っていた。
彼は、逃げたくても動けず、命をかけた選択を迫られているかのようだった。
その瞬間、佳子の瞳に浮かぶ複雑な感情を見て、彼は彼女の過去を理解し始めた。
「私のせいで…家族を失ったのよ。美しさに妬む者たちに、命を奪われたの」と彼女は泣きながら呟いた。
直樹は、彼女の悲しみに胸が締め付けられる。
彼女が望んだのは、ただ美しさだけではなく、愛されることでもあったのだと気づく。
しかし、その思いは牢獄のように彼女を縛り付けている。
直樹は決意した。
彼女に光を与えようと、一歩前に出た。
「あなたの美しさは本物です。でも、過去を背負うことはない。解放されて、命を奪うことはやめるべきです。」すると、佳子の表情が一瞬にして変わった。
悲しみに満ちた美しさが、徐々に解放されていく。
その瞬間、廃屋は静寂に包まれ、彼女の姿は儚く消えていった。
直樹は、ただ立ち尽くし、彼女の言葉が響く。
「妬みが生む悲劇を、どうか繰り返してはならない」と。
その後、直樹は怯えながらも廃屋を後にし、命の重さと美しさの本質について考え続けた。
彼にとって、その夜の出来事は決して忘れられない教訓となった。