「罪の路と人形の声」

道端に佇む若い女性、由紀は、毎晩同じ時間に家を出て、決まった路を歩くことを日課としていた。
彼女の住む町は静かで、周囲には深い森が広がっていた。
夕暮れ時には道が薄暗くなり、人通りも少なくなるため、由紀はいつも少し怖い思いをしながら歩いていた。
しかし、何かに引き寄せられるかのように、彼女はその道を選んでいた。

ある冬の寒い夜、由紀はいつものように路を歩いていた。
薄い霧が立ちこめ、静寂が辺りを包み込んでいた。
そんな中、彼女の目に一つの印が飛び込んできた。
それは、道の片隅に無造作に置かれた、古びた人形だった。
人形の表情は無表情で、どこか哀れみを誘うような雰囲気を持っていた。
由紀は思わず立ち止まり、その人形をじっと見つめた。

「どうしてこんなところに…?」彼女はつぶやいた。
人形に触れようと手を伸ばしかけたが、突然、背後から声が聞こえた。
「それを触ってはならない」と、低い声が彼女の耳に響いた。
振り返ると、そこには誰もいなかった。
寒気が背筋を走り、由紀は急いで道を進むことにした。

しかし、その日以降、由紀の周囲には奇妙な現象が起こり始めた。
夜になると、どこからともなく人形の声が聞こえてくるようになった。
「私を連れて行って…」その声は、まるで彼女を呼んでいるように感じられた。
彼女はその言葉が耳を離れず、徐々に精神的に追い詰められていった。

何日もその声に苛まれ、由紀は徐々に心のバランスを失っていった。
逆に仕事や友人との会話も疎かになるほど、彼女は人形とその声に魅了され続けた。
ある夜、彼女は再びその路を歩くことに決めた。
人形が彼女に訴えるように呼んでいるのを感じたからだ。

夜の静けさの中、再び人形のところへ赴いた由紀は、手を差し伸べた。
触れると、指先から冷たい感触が広がり、彼女は一瞬硬直した。
人形の表情が変わり、不気味な微笑を浮かべたように見えた。
その瞬間、由紀の頭の中には、彼女が過去に犯した罪が浮かび上がった。

数年前、由紀は友人との喧嘩をきっかけに、彼女の思いを無視し、急いてその場所を去る決断をした。
その友人はその後、事故に巻き込まれて彼女の目の前から消えてしまった。
由紀はその罪悪感に毎日苛まれていたが、それを封じ込めるしかなかった。
今、その心の中の後悔が人形となり、彼女に迫ってきているようだった。

「私を連れて行って…」その声が再び響く。
由紀はその声に抗えず、涙を流して彼女の思いを受け入れた。
彼女は人形の手を取り、覚悟を決める。
「ごめんなさい…」と口にする。
しかし、答えは返ってこない。
ただ静寂の中、彼女は人形の冷たさを感じながら、ただ立ち尽くす。

その後、由紀の姿は町から消えた。
路を歩けば、人形が静かに佇む場所に彼女の名が呼ばれ続ける。
誰もその道を避けずにはいられない。
道には誰もいなくなり、毎晩、人形だけが「私を連れて行って…」と痺れた声で語りかけるのだった。
彼女たちの罪が、あの日の路に刻まれ続ける限り、静寂の中で永遠に繰り返される運命を背負って。

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