「罪の森」

深い森の奥に、村人たちが恐れを抱く場所があった。
その名は「昇りの森」と呼ばれ、決して足を踏み入れてはいけないと言われていた。
森には、昔この土地で不幸な出来事があり、その罪が未だにさまよっているという言い伝えが残っていた。

ある日、若い女性、佐藤美希は友人たちと共にピクニックに出かけることになった。
陽の光が差し込む明るい森の中で、美希は友人たちと楽しげに過ごしていた。
しかし、彼女の心には少しの不安があった。
「ここは本当に安全なのだろうか」と、森の深さを思うと、胸が締めつけられるようだった。

時が経つにつれ、友人たちはそれぞれ興味のある場所へ散らばり、美希は一人で森の奥へと進むことにした。
彼女は不安を振り払い、探求心に駆られた。
「せっかくの森なのだから、もっと楽しもう」と自分に言い聞かせたのだ。

しかし、美希が奥へ進むにつれて、ゆっくりと周囲の様子が変わっていくのを感じた。
木々はうっそうと生い茂り、暗い影が彼女を包み込むようだった。
すると、突如として背後に何かの気配を感じた。
振り返ると、彼女の目に入ったのは、道に迷ったかのようにうなだれて歩く一人の男性、山田昇だった。

「君もこの森に迷い込んだのか?」昇は、力なく尋ねた。
美希は彼の様子に不安を覚えたが、勇気を振り絞り、彼に近づいた。
「一緒に戻りましょう。森の奥には何もないと言われていますから。」

昇は頷くが、その目にはどこか罪深い影が宿っていた。
彼はまるで何かに追われているかのように、恐怖を帯びた表情を浮かべていた。
「ここは…帰れない場所なんだ。」彼の言葉が、美希の心に不穏な波紋を広げた。

彼女は彼を見つめ、「何を言っているの?ここから出ましょう。」と促すが、昇の目は虚ろで、彼の声は途切れ途切れだった。
「私は…ここで犯した罪を償わなければならない。」と彼は呟いた。

美希は身震いし、急いで森の出口を探し始めた。
しかし、どうしても道を見つけることができなかった。
突然、咳き込むような声が森の中から響いてきた。
「昇…お前の罪は、早く返してこいよ…」それは、かつて昇が命を奪った者の霊の声だった。

「美希、走れ!」昇の声が響くが、その眼差しにはもう生気がなかった。
彼の周りは、無数の影が現れ、彼を取り囲んでいた。
美希は恐怖のあまり、その場から逃げ出した。
振り返ると、昇が影に呑み込まれていく様子が目に飛び込んできた。

彼女は必死に森を駆け抜け、「助けて!」と叫んだ。
しかし、森の反響がその声を吸い込んでしまう。
美希は心の底から湧き上がる恐怖を感じつつ、ようやく森の出口が見え始めた。

彼女は森を突破し、外の世界へと戻ることに成功した。
しかし、振り返ると、森は静けさを保ちながら彼女を見守っていた。
その瞬間、彼女は「誰もこの罪を持ち帰ってはいけない」と聞こえた気がした。

数日後、美希は村で昇の死を知った。
彼が森の奥で、ついに生き残ることを許されなかったことを知ったのだ。
彼はその場で命を奪われ、それを償うこともできずに消えていったのだった。

美希は心に重い罪を抱えながらも、生き残ったことを無駄にしないようにと、自らを律して生き続けることを決意した。
森が持つ罪の深淵は、彼女の心の中にいつまでも影を落としていた。

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