その日、雅也は高校の友人たちと一緒に、山奥にある古い神社を訪れることにした。
周囲には、何もない静寂が広がっていた。
神社の背後には、長い間使われていない廃坑のトンネルがあった。
そのトンネルは、「罪のトンネル」として知られ、過去に多くの人が不運な事故で命を落としていた。
友人たちの中には、そのトンネルに足を運んで肝試しをしようという話が出てきたが、雅也は内心渋っていた。
トンネルの牢獄のような空気に覆われた瞬間、彼の心に不安が走った。
友人たちの笑い声が耳に入るものの、彼自身の心は脈を打っていた。
「戻りたい」と思う気持ちと、友人たちを裏切りたくない気持ちが交錯していた。
結局、雅也はその場で足を踏み入れることにした。
暗闇が彼らを包み込むと、なんとも言えない冷気が全身を貫いた。
視界がほとんどゼロに近い中、彼は周囲の友人たちの声を求めて足を進めた。
そのうちの一人が突然、「何かいる!」と叫び、全員が我先にと逃げ出した。
雅也は誰かに次第に置いてけぼりにされ、トンネルの奥へと引き寄せられていくような感覚を抱いた。
「助けて……」低く震える声がその場に響いた。
それは女性の声だった。
雅也はその声に使い古されたような感覚を抱きつつも、気のせいだと思おうとした。
しかし、その声が再び、「私を助けて……」と響くと、彼は一瞬、真剣に声の主を探し求めた。
不気味な静寂の中、彼は小さな影がぼんやりと目に入るのを見た。
それは人間の形をしていたが、それ以上の具体性を持たない、まるで霧のような存在だった。
雅也は恐れを感じながらも、その影に引き寄せられるように進んでいく気がした。
「私が罪を犯したから、私はここにいる……」その影は囁くように雅也に言った。
罪。
それは彼がずっと心のどこかに抱えていた重荷だ。
友人の中の一人を置いてけぼりにしたこと、それが彼の心を引き裂くような苦痛を与え続けていた。
影は一層近づいてきた。
それがあの置いてきた友人の姿を歪ませたものであることに気づいた瞬間、雅也は足がすくんでしまい、立ち尽くしてしまった。
彼の心にずっしりとした重荷がのしかかる。
「私を助けて……あなたのせいで、私はここにいる」影は一層、また近くへと進む。
雅也はその声が自分を責めるものであることを理解した。
彼は友人を見捨てたと思い、罪悪感に苛まれた。
そして、今ここで影が彼に呼びかけることで、自身の罪が彼を追い詰めていると感じたのだ。
逃げ出したい気持ちが募るが、彼は動くことができなかった。
影はすでに彼の背後に迫っていた。
「暴かれることを恐れないで。あなたの選択が、私をここに縛りつけた」と影はさらにささやく。
かつての友人が、その姿で雅也を怨んでいるのか、あるいは彼自身を悔いさせるために存在しているのか、彼にはわからなかった。
雅也は凍りついたまま、影の目線を感じながら動こうともせずにいた。
そして、影が彼の心の奥底へと侵入してくるような感覚を受けながら、全てが暗闇に飲み込まれていく感覚を抱いた。
目を閉じると、今度は自分にとって最も大切だったはずの存在が、闇から初めて目の前に現れた。
彼はかつての友人の名を叫び、その瞬間、冷たい影が彼を包み込むような感触を覚えた。
その後、雅也がこの世に戻された時、彼は一人でトンネルの出口に横たわっていた。
友人たちの姿はもうそこにはなかった。
彼が向かう道に戻るまで、その影は彼の心に影を落とし続けるだろう。
彼の背後からは、あの囁きが消えることはなかった。