夕暮れ時、次第に暗くなる道を田村雅也は自転車で帰宅していた。
彼の家は町の中心から少し外れた場所にあり、帰り道の途中には人通りの少ない長い一本道があった。
その道は、昔から「続く道」として知られ、ただの道なのに何か得体の知れない恐れがあった。
地元の人々はあまり気に留めないようにはしていたが、噂は語り継がれていた。
「この道を通ると、遠くから誰かがついてくるかもしれない」と。
その日の雅也は特に何も感じていなかったが、正体の知れない不安が心の隅にひっかかっていた。
自転車を漕ぎ続けるうちに、徐々に薄暗い空気の中に不気味なものが混じり始めるのを感じた。
と、その時、彼の背後から「ガサッ」という音が聞こえた。
振り返ると、誰もいない。
全くの無人の道、そしてただちらちらと風が吹いているだけだった。
不安になりながら自転車を漕ぎ続けたが、再び「ガサッ」という音が響いた。
彼はしまいにはその音を無視できず、恐れを振り払いながらじっと耳を澄ますと、やはり音がする。
まるで誰かが後ろから迫ってきているような気配を感じ、急いで自転車を漕ぎ始めた。
独特の空気感が彼を包み込み、思わずペダルを踏む足が早まる。
すると、急に風が強く吹き、白い霧が道を覆い始めた。
雅也は「これはまずい」と思ったが、気づくと視界が遮られて周囲も見えなくなり、彼は途方に暮れた。
心臓が高鳴り、早くこの道を抜け出さなくてはいけないと焦った。
その時、再び「ガサッ」という音とともに、何かが彼の後ろにいる気配を感じた。
「誰かいるのか?」心の中で叫びながらも、振り返ることができなかった。
さらに恐怖が増していた。
まるで影が自身の後を追ってくるかのようで、急かされる思いで自転車を漕ぎ続けた。
しかし、遠くから聞こえるあの音に、何か得体の知れない感情が彼の中で渦巻く。
周囲の風景も霧に覆われ、まるで異次元に迷い込んだかのようだった。
どこまでも続く道をくだりながら、彼はその影から逃げようとしていた。
近くの家々も彼の視界から消え、ただ暗い道が続いていく。
息が切れ、内心で恐怖を募らせていたその時、ついに彼は振り返った。
そして見たのは、白い服を着た女性の姿だった。
彼女は優雅な動きで近づいてきていたが、その表情は何かを求めるような哀しみが漂っていた。
目が合った瞬間、雅也は強烈な恐怖を感じ、自転車を必死に進めた。
「どうして逃げるの?」彼女の声が耳に届いたような気がしたが、彼はそれに耳を傾ける余裕もなく、ただひたすら漕ぎ続ける。
パニックになり、もう限界だと感じた瞬間、ふと道の端に止まっている黒い人影を見つけた。
そこにはまるで彼を待っているかのように立つ一人の少年がいた。
「彼女に何かを返さなくてはいけない」とその少年が言った時、雅也は矛盾した感情に襲われた。
少年の目が哀しみを含んでいるのが分かり、何か運命のようなものを感じ取ってしまった。
「戻れ…戻らなきゃ…」その言葉が彼の心の中で響いてしまった。
その後、雅也はその道を何とか抜け出し、無事に家にたどり着いたが、心には何か重いものが残った。
日々を過ごしていく中でも、時折夜になるとあの女性のことを思い出す。
不安がいつも彼に付きまとい、彼は「またあの道を通る必要があるのだろうか?」と思うことが多くなった。
しかし、いざその道を通ると、あの白い霧と共に消えた女性の影が頭をよぎり、何かを返すことの重要性を秘めたまま彼の日々は続いていく。
彼の心に残った影響は、決して消えることのないものだった。