「絶望の舎」

静かな夜、俊と美咲は、不気味な舎の中にいた。
二人は大学の肝試しとして、友人たちと共に訪れたが、気がつけば仲間たちは帰ってしまい、あたりは静まり返っていた。

「俊、もう帰ろうよ。ここは本当に気味が悪い」と、美咲がため息をついた。
彼女の声には不安が滲んでいる。
俊はその気持ちがわからないわけではなかったが、心のどこかでこの舎に何かを求めていた。

「もう少しだけ、探検していこうよ。何も起こらないって」と俊は言った。
狭い廊下をさらに奥へと進むと、舎の中にある一つの部屋に目が留まった。
扉は微かに開いており、薄暗い部屋の中からは何か不気味な気配が漂っていた。

「俊、やめようよ。本当に恐いよ」と、美咲は再び言ったが、俊は意を決してその扉を開けた。
部屋の中には古びた家具が散乱し、窓は閉ざされたままだった。
しかし、一際目を引くのは、壁に貼られた一枚の文だった。

「ここにいる者たちよ、絶望の間に閉じ込められし者よ。一度足を踏み入れたなら、二度と戻ることはできぬ」と書かれていた。

俊はその文を見て不安が広がっていくのを感じた。
しかし、そんなことには構わず、部屋の中を探索し続けた。
美咲はその間中、後ろで声をかけるが、俊はだんだんその声が遠く感じられるようになった。

「俊、お願い、戻ってきて!」美咲の声が急に大きくなった。
振り向くと、美咲が不安そうに立っていた。
俊は一瞬その表情を見て、何かが変わり始めたことに気がついた。

「どうしたの、美咲?」俊が尋ねると、美咲の目が大きく見開かれ、彼女の後ろに何かが見えるような気がした。
俊はその恐ろしい直感を無視しようとしたが、まるで何かが彼を呼んでいるかのようだった。

「もう戻ろう、ここには何もないよ」美咲が声を震わせて言った。
俊の心に不安が膨らんでいく。
彼は美咲を安心させたくて「大丈夫、もうすぐ出るから」と言ったが、実際のところは麻痺したような気分になっていた。

その後、俊は部屋の奥へと進んだ。
奇妙な感覚が彼を包み込んでいく。
まるで周囲の空気が濃くなって、自分の考えがもはや思い浮かばなくなるかのようだった。

その時、俊の目の前に一つの影が現れた。
人影とは明らかに異なるその存在は、まるで彼の心の闇が具現化したようだった。
俊は恐怖に駆られ、すぐに引き返そうとしたが、背後から美咲の声が聞こえた。

「俊、後ろを見ないで!」その声は絶望的な響きを持っていた。
しかし、俊は振り返ってしまった。
その瞬間、影が彼の目の前に立ちはだかり、彼はその形をしっかりと認識することができた。

それは、美咲自身の姿に似ていた。
だが、その表情は決して美咲のものではなく、冷たい目をした異なる存在だった。
俊は恐怖が体を支配する中、その影に向かって叫んだ。
「美咲、逃げろ!」

だが、俊はその瞬間に理解した。
彼はもう戻ることができない。
俊は美咲の絶望の叫びを耳にしながら、不気味な影に飲み込まれ、しばらくして静かに舎の中に佇む姿となった。

美咲はその場を離れようと必死だったが、俊の存在が絶望的な真実を教えていた。
彼は二度と戻ることができない。
この舎の間に永久に閉じ込められたのだった。

静かに夜が明け始め、誰もいない舎の中に、ただ俊と美咲の声だけが響いていた。

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