「絶望の森の囁き」

山深い村にある小さな集落、そこには「密」という名の若者が住んでいた。
彼は、村の外れにある「絶の森」と呼ばれる場所に強い憧れを抱いていた。
噂によれば、その森には誰も見たことのない存在が住んでおり、彼を引き寄せてやまなかった。

ある晩、月明かりが森を照らす中、密は思い切って森へ足を運ぶことにした。
夜の静寂が包む中、彼は緊張しながらもその深い森の中へと進んでいった。
暗闇の中、彼の心拍は次第に高まり、足元の木の根に躓きながらも前へ進んだ。

森の奥に入るにつれて、空気はどこか重く、不気味な静寂が彼を包み込んだ。
しばらくすると、突然、彼は何かの気配を感じた。
ふと振り返ると、どこからともなく一対の手が彼を見つめているような気がした。
しかし、手は人間のものではなかった。
長く細い指に、青白い光を放ちながら彼の方へと伸びていた。

「誰だ!」密は叫び声を上げた。
しかし、返事はなく、ただ静けさが返ってきた。
恐怖に駆られながらも、彼はその手に引き寄せられるように足を進めていった。

やがて、森の中心にたどり着くと、そこには古びた石の祭壇があった。
その祭壇の上には、血がにじんだような痕が残されていた。
彼はその光景に目を奪われ、動くことができなかった。
すると、その時、彼の周りの空気が一変した。

先ほどの手が、今度は自らの姿を現した。
そこには、まるで霧から生まれたかのような美しい女性が立っていた。
彼女の目は深い闇を湛え、何かを求めているようであった。
「私を解放してほしい」という声が密の耳に響いた。

密は恐れを感じつつも、その言葉に心を動かされ始めた。
彼女の背後から、無数の手が現れ、彼を取り囲む。
彼はその手の多さに圧倒され、逃げ出そうとしたが、根が張り付いたように動けなかった。

「あなたが望んでいたもの、私が与えよう。」彼女の声は次第に力を持ち、密の心の奥に潜む願望を探り始めた。
彼は自らの意志を取り戻そうとしたが、彼女の手はまるで彼の心の中に入ってくるかのようだった。

「何でもやる、私をここから出してくれ!」密は叫ぶ。
だが、彼女は静かに微笑み、彼の願いを見透かしていた。
「それは、あなた自身が見ない振りをしている存在。しかし、その存在は決して消えることはない。」

彼の意識が揺らいでいく。
すると、彼女の手からは、不気味な影が芽生え、彼に向かって伸びてきた。
それは彼がかつて見逃してしまった、たくさんの「最後の瞬間」を思い出させるものだった。
彼はそれを拒むが、やがてそのビジョンは圧倒的な力を持つようになっていった。

「どうすればいいのか教えてくれ!」密は死力を尽くして叫んだ。
しかし、絶え間ない囁きが彼の耳を覆い、彼に動くことを許さなかった。
彼は心の中でその影と向き合い、様々な感情が交錯する。
その中で、彼は自分が語らなかった言葉、忘れてしまった「終わり」を受け入れることができなかった。

ついに、その手は彼の心に到達し、彼はその存在を認識した瞬間、思わず目を閉じた。
暗闇が全てを包み込む中、彼は永遠にその森から抜け出せないことを悟る。
絶望と共に、彼は自分自身を見失い、今や彼の目の前に立つ女性の姿が彼の全てとなった。
どこかでか細い声が響き続け、密はその声に耳を傾けるしかなかった。

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