静まり返った洋館の中、田中健二は暗い廊下を進んでいた。
彼は友人から聞いた「怪の間」と呼ばれる部屋を目指していた。
その部屋には、恐ろしい現象があると噂され、多くの人が足を踏み入れられない場所だ。
しかし、健二はその謎を解き明かしたいという好奇心と恐怖心が入り交じり、どうしても確認せずにはいられなかった。
洋館は古く、廊下の床は大きくきしみ、壁紙は剥がれかけている。
部屋の隅々には尘が積もり、長い間誰も訪れていないことを物語っていた。
健二は心臓が速く鼓動するのを感じながら、怯えながらもその部屋に到達した。
大きな扉の前に立ち、手をかける。
扉は重たく、まるで何かが内側から阻止しているかのように感じたが、意を決して引いた。
扉が開いた瞬間、冷気が流れ込み、健二は身震いした。
部屋の中には、古びた家具が散乱し、真ん中には奇妙な模様が描かれた絨毯が敷かれていた。
その模様はまるで人の顔が歪んでいるかのように見え、目が合ったような気がした。
健二は怖さを感じたが、同時に引き寄せられるように絨毯に近づいた。
その瞬間、彼の目の前で絨毯が動き出し、まるで生きているかのように波打った。
「え?」彼は驚きの声を上げるが、その声はかすかに響くばかりだった。
部屋の中の空気が重たくなり、何かが迫ってくるような気配を感じた。
「帰れ!」と、誰かが耳元で囁いた。
その声は優しくもあり、同時に脅迫的でもあった。
健二は恐れを抱きながらも、逃げ出すことができなかった。
絨毯の模様がさらに鮮明になり、無数の目が健二を見つめているかのように思えた。
「どうして、私はここにいるんだ?」彼の心の中で問いが渦巻く。
怖れからか、思考がまとまらない。
急に視界が歪み、目の前の模様が彼に向かって寄ってくる。
彼は後ずさりしようとするが、足が動かない。
まるで絨毯に引き寄せられているかのように。
その時、模様の中から不気味な顔が浮かび上がった。
それはただの模様とは思えない、実在の存在のように見えた。
顔は笑っていたが、その目は冷たく、健二の心に恐怖を植え付ける。
彼は思わず呻き声を漏らした。
「あなたも仲間になるのよ」と、その存在が冷淡に言った。
彼はその言葉に恐れが募り、堪らず叫び声を上げた。
「助けて!」しかし、その声は建物の静寂に消えた。
健二は全てが絶望に包まれていくのを感じた。
周囲の空気が重くなり、彼の心の中で恐怖が芽生え、次第にそれが大きくなっていく。
彼は果たしてこの恐怖から逃げ出すことができるのか。
光のない絨毯の模様が彼に取り込まれようとする。
彼は全力で反抗しようとするが、身体が言うことをきかない。
やがて、彼の意志とは裏腹に、彼は次第にその模様の中に飲み込まれていった。
まるで自分がこの洋館にいることが、すでに過去の夢だったかのように思えた。
「どうして、こんなことになったのか」と彼は思う。
恐怖に押しつぶされながら、彼は逃げられない現実を受け入れるしかなかった。
周囲は再び静まり返り、彼はそのまま姿を消してしまった。
洋館には、今もなおその噂が生き続けている。
「怪の間」に入った者は、二度と戻らないという恐ろしい伝説が。
健二の存在は、永遠にその絨毯の模様の中に封じ込められ、彼を待ち続ける陰がひとりぼっちで佇んでいるに違いなかった。