夜の静けさが周囲を包む中、桜井健太は友人との約束を果たすため、山奥の神社へ向かっていた。
その神社は「絶望の社」と呼ばれ、かつて多くの人々がその場所で不幸に見舞われたという噂があった。
彼自身、そんな話を半信半疑で聞いていたが、心のどこかではその異様な雰囲気に興味を惹かれていた。
神社の鳥居をくぐり、上り坂を進むにつれて、周囲の賑やかさは次第に失われていく。
月明かりだけが健太の道を照らし、不気味な影が揺れるのが見えた。
友人たちとの待ち合わせ時間は過ぎていたが、彼はそのまま社へと向かうことにした。
心の中で不安を感じつつも、何か特別な体験を求めていたのだ。
社に到着すると、健太は異様な静けさに圧倒された。
周囲には誰もおらず、風もほとんど吹いていない。
健太は不気味さを感じながらも、社内を探索することにした。
薄暗い境内の奥に進むと、奥に見える一つの小さな祠が目に入った。
そこには「絶望の扉」と呼ばれる古びた木の扉があった。
恐る恐る扉に近づいた健太は、手を伸ばして扉を開けた。
すると、どこからともなく冷たい風が吹き抜け、扉の奥に目を凝らすと、薄暗い空間の中で何かが動いているように見えた。
目をこらしてみると、それは一人の女性の霊だった。
彼女は白い着物を着ており、長い黒髪が彼女の顔を隠していた。
「助けて…」彼女の声が響く。
健太はその言葉に心を引かれた。
彼女は何か大切なことを伝えたがっているようだった。
「何があったの?」健太は恐る恐る尋ねた。
彼女は少しずつ顔を上げ、目が合った瞬間、彼の心に冷たい恐怖が走った。
彼女の目には無限の絶望が宿っていた。
「私はここで永遠に彷徨っている。誰かが私を救ってくれなかったから…」彼女の口から漏れた言葉は、深い悲しみを帯びていた。
健太は胸が締め付けられる思いに駆られ、何も言えなかった。
「私を忘れないで。あなたが持つ希望が私を解放できるかもしれない。」彼女はそう続け、次第に姿がぼやけていく。
健太は心の中の葛藤に悩まされながらも、彼女の存在を感じ続けた。
彼は誓った。
彼女を救うために、彼女の過去を知りたいと。
その後、健太は周囲を調べることにした。
社の古い文書を見つけ、そこに書かれていた内容を読み進めるうちに、彼女がどれほどの悲劇に見舞われたのかが明らかになった。
彼女の名前は「桜井美咲」、かつてこの神社で生け贄として捧げられ、絶望の業に囚われた霊なのだ。
彼女の痛ましい運命を知った健太は、何とか彼女を解放したいと心から願った。
その夜、再び神社に足を運び、「美咲を救いたい」と願いを込めて祠の前で祈りを捧げた。
すると、突然風が激しく吹き始め、健太は神社の中が赤い光で満たされるのを感じた。
美咲の姿が彼の前に現れ、涙を浮かべながら彼を見つめていた。
「ありがとう…」彼女の声が響くと、彼女は涙を流し、その後静かに消えていった。
健太はその光景を見つつ、心の奥に温かい感情が広がっていくのを感じた。
彼女の絶望が解かれたのだ。
しかし、その瞬間、彼の心の中に恐ろしい現象が広がり始めた。
美咲を救ったことで、自身が新たな「絶望」を背負ってしまったのだ。
彼女が消えた後、周囲の景色は変わり果て、深い闇と静寂だけが残った。
神社を後にした健太は、心の奥深くで彼女の微笑みを保持しつつも、その代償が何であったのかを考え続けた。
どれほど周りが賑わっても、彼の中にはもう、明るい光は戻ってこないのだった。
彼はただ一つ、彼女を救ったのが自身の絶望の始まりであることを理解せざるを得なかった。