昔、静かな山奥にある古びた寺があった。
その寺は、長い間忘れ去られたかのように、ひっそりと佇んでいた。
しかし、その寺の奥には、特別な場所があった。
それは「くるいの間」と呼ばれる、不思議な現象が起こる部屋だった。
ある日、若者の裕樹と友人の健太は、心霊スポットとして有名なこの寺を訪れた。
彼らはこの寺で恐ろしい体験をするという噂を聞いていたのだが、果たしてそれは本当かどうかを確かめたいと思っていた。
寺に着くと、壮大な本堂は静寂に包まれ、不気味な気配が漂っていた。
しかし、彼らは好奇心に駆られ、くるいの間を探し始めた。
薄暗い廊下を進むと、古い扉が現れた。
裕樹は扉をゆっくり開け、中に入る。
そこには異様な静けさが広がっており、壁には古びた掛け軸がかかっていた。
そして、ふと目を凝らすと、掛け軸の中に描かれた人物が動いているように見えた。
驚いた裕樹は、思わず後ずさりしたが、健太は興味津々で近づいてはしゃいだ。
彼らが話していると、健太が「何かおかしい」と感じ、背筋が寒くなるのをわかった。
その瞬間、突然扉が閉まり、二人は閉じ込められてしまった。
裕樹は焦り、健太は楽しむように笑った。
その時、くるいの間の異変が始まった。
壁から奇妙な声が聞こえ始め、「仲を割く者よ、ここから出ることは許さない」と囁くような響きだった。
裕樹は青ざめ、「俺たち、出られないかもしれない」と言った。
健太は笑って「大丈夫さ。きっと何かの間違いだよ」と楽観的だったが、裕樹は不安を隠せなかった。
時間が経つにつれ、彼らの怖れは膨れ上がった。
さらに、バッグの中から裕樹のスマートフォンが鳴り始め、画面には「出て行け」とだけ表示されているのが見えた。
心臓が高鳴る中、裕樹は機械の言葉に惹かれるように心を乱された。
その瞬間、健太の表情が変わり、顔色が悪くなった。
「裕樹、何かがいる…」彼は小声で呟いた。
裕樹も違和感を覚えた。
暗闇の中で、彼らの気持ちが縮まることはなく、むしろ分裂していくように感じた。
裕樹は冷静さを取り戻そうとしたが、健太は怯え、ついに泣き始めた。
「お願いだ、出してくれ…」その声は悲鳴にも聞こえた。
裕樹はどうすることもできず、ただ友人を抱きしめていた。
そして、再び「仲を割く者よ」と声が響いた。
裕樹はその言葉が彼らの友情を切り裂こうとしていると理解し、決意した。
「健太、俺たち二人で乗り越えよう!」言葉を力強く発した。
しかし、健太は身を拒み続け、「無理だ、もう僕はだめなんだ…」とのみ言う。
裕樹は悲しそうに微笑み、友人を信じることにした。
二人で手を取り合い、共に声を合わせ、「この絆は割れない!」と叫んだ。
すると、声が止み、奇妙な霧が解けていくように感じられた。
扉が開いた瞬間、二人は外に飛び出した。
ただし、健太の方は微かに感じられるが、どこか違和感があった。
裕樹は振り返ったが、寺はいつの間にか静まり返っていた。
その後、裕樹は平穏無事に生活を続けた。
しかし、時折夢に健太が出てきて、彼に「助けて」と言うようになった。
裕樹は、自らの中で何かが変わったことを感じ、友との絆がほんのわずかに割れてしまったと知るのだった。
寺に囚われていたくるいの間の悪夢を思い出しながら、裕樹は一人、友との絆を振り返り続けた。