終わりを迎える村、ここではすべてが静まり返っていた。
深い山々に囲まれ、時折吹く風が木々をざわめかせるだけで、村人たちは自らの運命を受け入れて暮らしていた。
その村には、誰も近づかない「密の森」と呼ばれる場所があった。
昔から、そこへ足を踏み入れる者は「の」と呼ばれる現象に巻き込まれ、生き残ることはできないと信じられていた。
村の外れに住む青年、健太は、次第に生きることに絶望を感じていた。
彼は周囲の圧力から逃れたくて、密の森の噂を耳にしていたが、何か特別なものを求めて森に行く決意を固めた。
夢の中で、彼はその森の奥に秘められた何かが自分を待っている気がしてならなかったのだ。
「行ってはいけない場所だ」と友人の裕子は警告した。
「あれは禁忌だよ、健太。でも、君が行くなら、私も一緒に行く。」
健太は裕子の言葉に少し安堵した。
二人はその晩、月明かりの下で森へ向かった。
夜の静けさは、彼らの心を引き締める。
しかし、魅惑的な夢のような気分が、健太の心を捉えて放さなかった。
「この森には、何かがある」と彼は言った。
「本当に私たちを惹きつける何かが…。」
二人は木々の間を抜け、草の絨毯に足を踏み入れていく。
まるで森が彼らを歓迎しているかのように感じられた。
しかし、次第に空気が重くなり、周囲の風景が歪み始める。
「ねえ、健太、何か変じゃない?」と裕子が尋ねる。
健太は頷いた。
夢のような興奮は、恐れと混ざり合って彼の心に影を落とし始めた。
「少し休もうか」と言い、二人は近くの大きな木の下に腰を下ろした。
目を閉じ、疲れを感じ始めたその瞬間、健太は夢を見始めた。
彼の目の前に現れたのは、見知らぬ女性だった。
その女性は明るい笑顔で、自分に向かって手を差し伸べていた。
「こっちへ来て。ここは安全よ」と囁く。
一瞬のうちに、夢の中で女性に惹かれ、健太はまるで呪縛にかかったかのようにその声に従っていた。
しかし、彼の隣には裕子がいた。
彼女は不安でいっぱいな表情を浮かべており、何かがおかしいと感じていた。
「健太、目を覚まして!」裕子が叫んだ。
その声が健太の耳に届くと、彼は急に意識を取り戻した。
しかし、周囲はすっかり変わってしまっていた。
密の森の深淵が彼を見つめ、闇の中からの影が次々と迫ってきていた。
彼の視界には、夢の中にいた女性の姿が現れたが、彼女は次第に恐ろしい顔を見せ始めた。
「あなたは私を拒んだ!」と彼女は叫ぶ。
その声は森を震わせ、あたり一帯に響き渡った。
裕子は恐怖で震え上がっていた。
彼女の隣にいる健太は、夢と現実の狭間で苦しんでいるように見えた。
「早く逃げよう!」裕子は健太を引っ張り、必死で森を脱出しようとした。
だが、周囲の木々がまるで生き物のように彼らの道を阻んでいた。
影は近づいてくる。
それは、森の奥深くに存在する「の」の現象そのものであり、自らの運命を受け入れざるを得ないものの象徴だった。
「どうして、私たちはここに来てしまったのだろう?」健太はつぶやいた。
裕子は「私たちが求めていたのはこの森ではない、私たちは逃げなきゃ!」と叫び続けた。
この窮地から逃れようとする二人の心の中で、恐怖が徐々に形を成し、密の森がその存在をより深く実感させていた。
果たして、彼らはこの恐怖から逃れることができるのか。
夢の中で期待していた「何か」は、本当に存在しているのか。
それとも、この森が彼らの終焉を見届けるためのものだったのか。
森の出口は見えないまま、二人は永遠に続く道を彷徨っていた。