ある日、東京都内の小さな美術館に、数人の学生が訪れた。
彼らは「現代アート」の課外授業の一環で、その美術館に特集展示されている「形」をテーマにした作品を見に来た。
展示室には、さまざまな形をした彫刻が並んでいたが、その中でも一つの作品だけは、どこか異様な雰囲気を漂わせていた。
その作品は、黒い石でできた人の形をした彫刻だった。
学生たちの中にいた佐藤は、その作品に魅了され、近づいてじっくり観察することにした。
まるで彫刻が生きているかのように、彼の目に映った。
その瞬間、周囲の空気が一変し、彼は背筋に冷たいものを感じた。
次の瞬間、彫刻の目が彼を見たような気がした。
他の学生たちは笑いながら、佐藤をからかい始めた。
しかし、彼はその彫刻から目が離せなくなった。
まるで何かを訴えかけてくるようだった。
気がつくと、彼はその形に心を奪われ、作品の前でずっと立ち尽くしていた。
「佐藤、戻ってこいよ!」友人たちの声が遠くから聞こえる。
その言葉に我に返るが、彫刻から目が離せない。
どこかで、「約束してほしい」という声が聞こえた気がした。
無意識に彼は、「何を?」と言った自分に驚いたが、その言葉は空気に吸い込まれていく。
友人たちは急かして彼を呼ぶが、佐藤はその彫刻と目が合ったまま、一歩も動けずにいた。
彫刻の形はどんどん変わり始め、やがてその石の肌に刻まれた模様が光を放ち始めた。
彼は完全にその光に引き込まれ、周りの世界がぼやけていくのを感じた。
突然、彼は周囲の景色が変わり、また別の空間にいることに気づいた。
その場所は、まるで暗闇に包まれた異次元のようで、冷たい風が吹き抜けていた。
目の前に現れたのは、彫刻と同じ形をした影。
影は彼に向かって手を差し出し、「約束の通り、戻ってこい」と呟いた。
彼の心に一瞬の恐怖が走った。
「戻る?どうやって?」佐藤は自然に出たその言葉に戸惑った。
しかし、影はただ静かに彼を見つめていた。
「約束の形の通り戻るのだ。」そう聞こえた気がした。
佐藤は何かが彼を試していることを理解した。
心の中で葛藤する佐藤。
果たして、彼はその約束を果たすことができるのか。
彼は再び目を閉じ、自分がいた美術館のことを思い出す。
そのとき、ふと浮かんだのは仲間たちの笑顔だった。
「戻る、戻るんだ」と心の中で繰り返し呟く。
気がつくと、周囲の景色が明るくなり始め、やがて彼は再び美術館の展示室に戻っていた。
しかし、そこにいたのは彼だけではなかった。
友人たちが心配そうに彼を見つめ、同時にその彫刻が消えていることに気づいた。
「佐藤、大丈夫?」友人の一人が声をかける。
彼はその場から解放されたことに安堵した。
しかし、心の奥に残る不安があった。
「約束」とは一体何だったのか。
それから数日がたち、彼はその彫刻のことが頭から離れず、何度も夢の中で同じ影を見るようになった。
不気味な影が再び彼を呼び寄せていることを感じ、佐藤は恐怖に駆られた。
彼はその展示を見ることを避けたが、友人たちはそんな彼をからかい、再度美術館に行こうと提案する。
しかし、佐藤は強く拒絶した。
このままでは、何か得体の知れないものに囚われてしまう。
だが、次の日、友人たちが美術館に行く準備をしていることを知り、彼は耐えきれずに行くことを決意した。
心の中には確固たる決意があった。
何が起こるのかは分からなかったが、彼はもう逃げられない。
そして、彼が再びその作品の前に立ったとき、全ての約束の真実が明らかになるのだろう。