「糸に縛られた魂」

薄暗い洋館が霧に包まれる中、一人の青年、健太はその屋敷に足を踏み入れた。
彼は学生時代の友人であり、昔から仲の良い集まりをもっていた仲間の一人に呼ばれて、ひさしぶりの再会を楽しみにしていた。
しかし、そこには何か不気味な空気が漂っていた。
ひんやりとした廊下を進むと、古びた家具や絵画が並ぶ部屋に辿りついた。
壁に掛けられた絵の中の女性が、彼をじっと見つめているような気がした。

「健太、遅かったな」と友人の一人が声をかけた。
彼の名は、優。
健太は優の開いた扉の先にいる仲間たちの顔を見て、安心したが、その表情にはどこか緊張感が漂っていた。
座った席はテーブルの真ん中、外側には仲間たちが集まった。
話題が絶えず流れ、楽しい時間は続いた。
しかし、笑い声の裏に潜む陰鬱さが、次第に健太の心に影を落としていた。

夜も更け、優が話し出した。
「この洋館、実はちょっとした曰くがあるんだ。昔、ここで一人の女性が亡くなったと言われてる。その人は生前、糸を使った作品を作るのが好きだったらしい。でも、作品に対して強い執着を持っていて、死んだ後もその作品に囚われているんじゃないかとも言われている。」仲間たちが興味を示す中、健太はその話に耳を傾けた。

「彼女は最後の作品が完成することなく、崩れた糸のように人生が終わったんだ。」優の言葉が耳に残った。
すると突然、部屋の隅に置かれた古い糸巻きが、何の前触れもなく動き出した。
仲間たちは驚き、目を見張った。
次の瞬間、糸が空中に舞い上がり、夜の闇の中へと消えていった。
健太は恐怖に駆られ、背筋が凍る思いをした。

「これ、どういうことなんだ?」健太は不安な表情を浮かべた。
他の仲間たちも恐れを抱えながら次々口を開く。
「これがあの女性の霊によるものなのかもしれない」「彼女の思いが今もこの家に残っているんだ」「やめよう、これ以上は危険だ」 不安な声が響く中、優は静かに立ち上がった。
「私はもう帰ろう。」桃色の糸が一瞬目を引いた。
その先には何も無い、いや、まるで過去の彼女がそこにいるかのようだった。

誰一人動けず、ただ恐怖に囚われていた。
その時、再び動き出した糸に目を奪われた。
糸は幾重にも絡まりながら、仲間たちの心の中に迫っていく。
仲間たちは恐怖に震え、未知の力に圧倒されていた。
健太は直感で、これが彼女の何かを伝えようとしているのではないかと思った。
だが、それはもう手遅れだった。

一人の仲間が叫ぶ。
「逃げよう!」と思った瞬間、一道の強風が吹き荒れ、その糸が一瞬にして仲間たちを奪っていった。
崩れ落ちるようにして彼らは次々と消え、ついには健太ひとりだけが残された。
彼は絶望的な気持ちと共に思い出した。
「俺には戻りたい過去があったのだと…」彼の心には、仲間たちとの笑い声、美しい思い出が蘇ってきた。
だがそれがもはや遠い過去であることを、彼は理解しなくてはならなかった。

最後に残った糸が健太を捉え、彼をその場から引きずり出そうとした。
彼はひたすら逃げようとしたが、足は動かなかった。
糸は絡まり、もがき苦しむ彼に彼女の叫びが聞こえてくるようだった。
「私の作品はまだ完成していない。お前にも私の思いを託す。」健太は心の中で叫んだ。
「それだけはやめてくれ!」しかし、糸は彼を捉え、目の前には崩れゆく運命が待ち受けていた。

そして、健太の意識が闇に飲み込まれた。
彼の叫びは消え、ただ静寂が広がる洋館には、再びかすかな笑い声が響いていた。

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