「篭の中の飛影」

篭の中には、数枚の古びた和紙が無造作に散らばっていた。
そこは、長い間手付かずだった倉庫の一角。
田中健二は、引っ越しの手伝いをしている最中に、その篭を見つけた。
興味本位で手に取ると、和紙には不思議な文字が書かれていた。
その字は、まるで人を魅了するかのような形をしていた。
健二は少し怖くなりながらも、気にせず篭を開けてみることにした。

ところが、篭の中からは何も出てこなかった。
ただ無邪気な思い出のように、埃をかぶった和紙だけが広がる。
そして、健二はそれを捨てるつもりでその場を去ろうとした。
その瞬間、ふいに風が吹き抜け、篭の中の和紙が空中に舞い上がり、一瞬のうちに舞っていた。
そして彼は、篭が何かの力を持っているのではないかと感じ取った。

後日、健二の友人である佐藤美咲が遊びに来ると、彼は篭の話をした。
「あれって、ちょっと変なものかもしれないよ」と健二は言うと、美咲は興味を示し、「一緒に見に行こう」と提案した。
二人は倉庫に戻り、再び篭を手に取る。
和紙の不気味な文字が二人を惹きつける。
しかし、その文字の意味を知る者は誰もいなかった。

友人との会話の中で、健二は篭の中に閉じ込められているような不安感を覚えた。
その時、篭がまた一度、不気味に揺れた。
周囲の空気も変わる。
美咲の横から、突然何かが飛び出た。
それは一瞬のことで、どう見てもただの紙くずであるはずなのに、まるで生きているかのように跳ね回った。

「見て! 飛んでる!」美咲が叫ぶと、健二も目を大きく開いた。
しかしその瞬間、篭はますます不気味に揺れ、和紙たちが狂ったように空中に舞う。
二人は恐怖を感じ始め、篭から目を背けることができなかった。
異常現象が続く中、二人は篭の中に吸い込まれそうな気配を感じる。
それはまるで、彼らの視線を取られ、深い闇に立たされているかのようだった。

遂に勇気を振り絞った健二が、「この和紙は本当に何なのか、調べてみる必要がある」と言い放つ。
美咲は恐怖を感じつつも頷き、二人は和紙の文字を解読するための手段を探し始めた。
ネットや古い本を引っ張り出し、調査を開始したものの、その和紙に書かれた内容は理解できなかった。
混乱しか生まれず、ついには誰もが思いつかないような恐ろしい理が働いているように感じた。

そして数日後、二人はついにフリーの民俗学者と連絡を取った。
彼は篭と和紙を見た瞬間、その目が驚愕に満ちた。
「これは、閉じ込められた魂を映し出す物です。もし、あなたたちがそれに触れたなら、飛び去ってしまうこともあり得ます」と彼は告げた。

恐怖に駆られた健二と美咲は、篭を封印することを決めた。
しかし、それでも篭は彼らの周りでまるで自分の存在を主張するかのように揺れ動い続けた。
不気味な飛翔が彼らの頭上を掠め、篭の中に何かが宿っていることを感じさせた。

平穏な日常は戻ることはなく、二人の心には常にその篭の影がついて回った。
人知を超えた何かが働いている不可解な恐怖に、健二と美咲はいつまでも囚われ続けるしかなかったのだ。

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