篭の中にひとりずつ閉じ込められた四人。
彼らの名前は和也、菜穂、健太、そして美咲だった。
場所は静かな田舎町の廃倉庫、かつては養鶏場として賑わっていたが、長年の放置により心霊スポットとして知られるようになっていた。
それぞれの目的には違いはあったが、彼らは肝試しのために集まった。
しかし、早くも雰囲気は不穏なものに包まれる。
倉庫の暗闇の中、誰かが「篭を作ろう」と提案したのだ。
遊び感覚で篭の中に入れ合い、恐怖を共有しようというのだ。
最初は笑い声が飛び交っていたが、ふと気がつくと、彼ら四人はそれぞれの篭に閉じ込められていた。
「冗談だろ、早く出してくれ!」和也は耳をつんざくような大声で叫んだが、反響する声が静寂に飲み込まれていく。
自分自身の声だけが彼の耳に響いた。
篭の中は狭く、圧迫感が増していく。
何かが彼の心の中でドキドキとする音を奏でていた。
同じように、菜穂も焦燥感に駆られていた。
彼女の篭の横にいるのは健太だった。
「これ、ただの悪戯よね?」彼女は冷静に言ったが、心の底で感じていた恐怖は明らかだった。
「絶対に誰かが外から見ていて、私たちをちょっとした実験台にしてるんじゃないかしら。」
美咲は静かに涙を流していた。
彼女は何が起きているのか理解できず、ただ恐怖に震えていた。
篭の中の彼女は、身体をひどくこわばらせ、脈拍が耳元で響いていた。
何もかもが過去の自分を捨て去ろうとしているかのようだった。
突如、篭の中からかすかな声が聞こえた。
「生きたいのか?」それはどこからともなく響いてくる声だった。
彼らは無言で顔を見合わせた。
暗闇の中から言葉が彼らの心に刺さる。
誰もが反応できずにいたが、和也が思わず口を開いた。
「もちろん、生きたいに決まってる!」
その声は返事を待たずに続けた。
「なら、お前たちには試練が必要だ。生き残りたいなら、選択をしなければならない。」突然、篭が揺れ始め、暗闇の中から目に見えない何かが迫ってきているような感覚を覚えた。
全身が強張り、息が詰まりそうだ。
菜穂が声を震わせながら言った。
「それって、何を選ばなきゃならないの?私たちを閉じ込めたのは誰なの?ほかの人たちはどうなっているの?」
「選ぶ権利は最も弱い者にある。彼女の選択次第でお前たちの運命が決まる。」その言葉に、場の緊張は一層高まった。
美咲は不安に駆られ、篭の中で絶望に沈んでいた。
彼女が選ぶことで他の誰かが助かる、それが微かな希望であるかのように感じていた。
しばらくの静寂の後、健太が決意をもって言った。
「美咲、選ぼう。私たちのために何をやらなきゃいけないのか、聞いてみよう。」彼の声には力強さが宿り、他の三人も心を一つにした。
「選択を始めろ。生き残りを選ぶのか、それとも…」その声はドクドクとした心臓の音に重なり、彼らの耳に響いた。
美咲は目を閉じ、何が起ころうとも後悔しない覚悟を固めた。
「私は…生きたい!」決然とした声が篭の中に響き渡った。
すると、闇の中から突然、圧力が消え去り、篭の扉が開いた。
彼らは一斉に外に飛び出し、暗闇の中へと逃げ出した。
彼らが目にしたのは、かつての友たち、しかし、彼らはもう、完全に消えてしまったようだった。
その瞬間、彼らは理解した。
生きることがどれほど重いものか、そして、その命を守るために何を選ばなければならないのか。
閉じ込められた篭が、彼らにとっての呪縛であり、同時に生き残るための試練であったことを。
月明かりの下、振り返ると、廃倉庫は静まり返っていた。
彼らはその場を離れ、二度とあの場所には近づかないと誓った。
しかし、心の奥には、生き残った後悔と恐怖が、深く根を張っていた。