彼女の名は由美。
ある冬の寒い夜、由美は親友の朋子と一緒に、山間の小さな村にある一軒の古びた宿に泊まることにした。
二人は温泉を楽しみにしていたが、その村には「一」という言い伝えがあった。
村の人々は言う。
「一度、そこに行くと帰れなくなる」と。
由美は朋子と笑い合いながら、宿の周りを散策することにした。
白い雪が静かに舞い降り、村は冬の静けさに包まれていた。
ふと、風が強く吹き抜け、由美は顔を引き締めた。
「寒いね、早く戻ろう」と言ったが、朋子は「ちょっと待って、あそこに光が見えるわ」と不思議そうに指さした。
由美はその方向を見ると、暗い森の中から淡い光が漏れ出しているのが見えた。
「あの光、なんだろう?」由美は興味をそそられたが、朋子は明らかに怖がっていた。
「行くのはやめようよ、何かおかしいって。」しかし、由美の好奇心は勝り、思わずその光に向かって進んでしまった。
森の中に入ると、風が葉を揺らし、まるで誰かが囁いているように感じた。
それでも、由美はその光が気になって仕方がなかった。
「ちょっと待ってて」と由美は朋子に言い、数メートル先の光に近づいていくと、ふと目の前に一つの物が現れた。
それは美しい光を放つ、古びた木製の箱だった。
「こんなところに、こんな箱が…」由美は興奮を抑えられなかったが、同時に背筋に冷たいものが走る。
朋子は不安気に言った。
「由美、やっぱり戻ろうよ。ここ、変だよ!」
しかし、由美は箱に近づき、蓋を開けることにした。
「見てみるだけよ、大丈夫」と返事をし、手を差し入れた。
蓋が開くと、そこには無数の小さな光が散りばめられていた。
何かのように浮かぶ光が、まるで別の世界の美しい生き物のように煌めいていた。
その瞬間、風が強く吹き抜け、由美の髪が乱れる。
彼女は目の前の光景に心を奪われ、思わず声を上げた。
「わあ、綺麗…」その言葉を発するや否や、箱の中から冷たい風が吹き出し、心臓が急に高鳴り始めた。
朋子は由美を引き離そうと必死で叫ぶ。
「由美、戻って!何か起こるよ!」だが由美はその声を聞かず、光に包まれていく。
箱の中の光が彼女の身体を満たしていく感覚に陶酔していた。
すると、光の中から一つの影が現れ、彼女をじっと見つめた。
それは、美しい女性の姿だったが、目は異様に暗く、何かを訴えかけているようだった。
「あなたは誰?」由美は恐れながらも尋ねた。
女性は微笑み、優しく言った。
「私はこの村の生の守り手。あなたが選択する時が来た。」
それと同時に、由美は一瞬具体的な情景を思い出した。
彼女の過去、家族との思い出、また失ってしまったもの全てが彼女の心を埋めていく。
由美は覚悟を決めた。
「私は、私の人生を生きたい。戻って、たくさんの人に会いたい。」
すると、女性の影は静かに頷いた。
その瞬間、箱が揺れ、光が彼女を包み込んだかと思うと、ここは真っ暗な森の中で、由美は朋子の手に引かれて救出されることとなった。
森を後にする二人が振り返ると、光る箱はもう消えていた。
「あれは何だったの…?」朋子が息を切らしながら問う。
由美は微笑んで答えた。
「私たち、選んで生きるってことを教わったのかもしれない。」彼女の心には、あの美しい光と女性の言葉が、生きる力として残っていた。
村に戻る途中、風が彼女たちの頬を柔らかく撫でた。
生きていることに感謝しながら、二人は足早に宿へと戻って行った。