「窓の向こうの悪霊」

彼の名は山田隆一。
隆一は友人たちとともに山間のキャンプ場に赴いた。
大自然の中で過ごすひとときに心を躍らせ、明るかった彼の心の奥には、少しの不安も隠れていた。
このキャンプ場には、以前から語り継がれている奇妙な噂があった。
夜に窓を開けると、何かがその向こうに見えるというのだ。

夕暮れ時、仲間と共にキャンプファイヤーを囲み、陽気な笑い声が響いていた。
そんな中で、彼はふと思い出す。
近くの村には「偽りの窓」を持つ家があるという話だ。
外から見ると穏やかな家だが、夜になるとその窓が悪しき存在を呼び寄せると言われていた。
誰もその家に近づかないが、好奇心が勝り、彼は冗談半分にその話を仲間に振った。

「なあ、あの偽りの窓を見てみようぜ!」彼の声に、仲間たちは笑いながら賛同した。
もちろん、彼らはその話を薄ら笑いで受け流していたが、心のどこかでドキドキする感覚を抱えていた。

夜が訪れると、仲間たちはテントの中で幽霊話を始めた。
その時、隆一も一緒になって語りだした。
彼は自分が知っている話の一つを語り、その後に窓の話を引き合いに出した。
「でも、あの窓が本当に偽りなら、何が見えるんだろうな?」

その笑い声の中、隆一は不意に窓の外で何かが動くのを見た。
彼は窓へ向かい、外を覗き込んだ。
しかし、そこにはただの闇が広がっていた。
何も見えない静寂の中で、彼は思わず息を呑んだ。
悪い予感が胸を締め付けた。

「何かあったの?」仲間の一人が顔を向けてきた。
隆一は視線を窓に戻し、言葉を濁した。
「いや、何も、ただの影だったよ。」その言葉が嘘であることを彼自身が理解していたが、恐怖に駆られて口に出せなかった。

寝ることに決め、仲間たちはテントに戻っていった。
隆一は不安に思いながらも目を閉じ、眠気を誘われた。
しかし、気が付くと夜中に目が覚めた。
いつもと違う静けさに包まれ、彼はすぐに窓の方へ目を向けた。

そこには薄暗い明かりが漏れ出していた。
隆一は心臓が高鳴るのを感じつつ、ふと気づく。
外に、誰かが立っている。
彼は窓を開けるべきか悩んだ。
すると、その影が彼に向かって手を振った。
子供のような無邪気さを持った動きだったが、不気味な気配が漂っていた。

「見てみたいのか?」小さな声が響いた。
その声は、果たして本物だったのか、彼の心の中の悪霊だったのか分からなかった。
隆一は恐怖心と興味に引かれ、結局窓を開けることにした。

風が彼の顔を撫で、その瞬間、大きな悲鳴が耳に入る。
小さな声と同時に響いてきたのは、彼の友人たちの声だった。
「隆一、やめろ!」と叫ぶ友人たち。
しかし、その時にはもう遅すぎた。
何かが隆一の背後に襲い掛かっていたのだ。

彼は振り返り、目を見開いた。
その場面は、まるで夢の中の光景のようだった。
彼の目の前に現れたのは、あの子供が抱いていたはずの影だった。
それは黒い霧で、彼を包み込もうとしていた。
彼は恐怖心から逃げるように次の瞬間、窓から身を引いたが、友人たちの悲鳴が次々と続いた。

目の前には虚構が押し寄せ、彼は立ちすくんだ。
仲間たちの声が次第に消え、彼の心の中には「偽」の存在が確かに存在することを感じた。
悪しき影はただ彼の知っている世界を少しずつ引き裂いているだけだった。

その後、彼がキャンプ場に戻った時、仲間たちの姿は消えていた。
外には静寂が広がり、彼はただひとり取り残された。
悪しき存在が彼に与えた試練は、目の前の「窓」に隠された不気味な真実であった。
彼はこれが偽りの世界であることを、今なお深く実感し続けている。
どんなに逃げても、彼の心の中には彼らの声が消えない限り、真実とは何かを知ることはできなかったのだ。

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