薄暗い庫に、長い間放置された古い品々が詰め込まれていた。
空気の冷たさと共に、重苦しい静寂が広がっている。
この庫は長らく使用されておらず、近所の人々からは「秘密の庫」と呼ばれるほど、奇妙な噂が絶えなかった。
中でも特に怖れられていたのは、過去にこの庫で起こった「還」という現象だった。
ある日、大学生の博也は、友人の圭介と共に、その庫を調査することに決めた。
博也と圭介は心霊現象に興味があり、特に「還」という出来事についての噂を耳にしていた。
「いいじゃん、ちょっと見てみようよ。」博也は言った。
圭介は少し不安そうだったが、友人の言葉に促されて同意した。
二人は夜になったころ、懐中電灯を手に庫へと向かった。
特別に警戒することはなかったが、薄暗い庫に足を踏み入れると、周囲の物々が重く感じられ、彼らの心に不安が広がっていった。
物の上にホコリが積もり、古い家具や工具が乱雑に置かれていたが、何も異常な様子はなかった。
しかし、なぜか彼らの心には奇妙な緊張感が漂い始めていた。
「この庫、絶対何かあるよね。」博也は、見る物全てに興奮気味に言ったが、圭介は黙り込んでいた。
圭介は実際に自分の周囲で何かが起こりそうな予感がしていた。
彼は過去の噂について考えながら、「還」の現象とは、一度、この庫に入った人間が、永遠にここに留まるということだと思い出した。
ふと、庫の奥からかすかな声が聞こえたような気がした。
二人は思わず目を合わせ、圭介は再び不安に襲われた。
「あれ、聞こえたよね?」と圭介が言うと、博也は「風の音だろう。気にすんな」と返した。
しかし、彼の声にはどことなく焦りが滲んでいた。
声は次第に大きくなり、暗い奥から「帰って…帰りなさい…」という言葉が響いてきた。
圭介は恐怖で息を飲み込み、懐中電灯の光をさらに奥へと照らした。
すると、入ってきた道が目の前で消え、暗闇が迫ってくるように感じられた。
あたりは漠然とした不安に包まれ、何かの存在が二人の周りで蠢いているようだった。
「戻ろうよ、もう帰ろう!」圭介は叫んだが博也は動かなかった。
「ちょっと待て…何か見えた」と言い、さらに前に進み始めた。
圭介は博也に引き留めようとしたが、彼はもうそのまま進んで行ってしまった。
庫の奥で待ち受けていたのは、過去の人々の姿だった。
まるでその場所に囚われたかのように、全ての者が博也と圭介を見つめていた。
彼らは彼ら自身の姿を見失い、ただ浸るように立っていた。
その中に、一人の女性が博也に向かって手を伸ばしながら、「あなたもここに残るの?」と囁いた。
突然、博也の視界が揺らぎ、彼は思わずその女性の手を引いて、庫の奥へと進むことができた。
圭介は必死に彼を呼び戻そうと叫んだが、博也はその声を聞くことができなかった。
やがて、博也は全ての運命が決して還ることのない場所に到達し、その瞬間、永遠に地主の一員となった。
しかし、外では圭介が泣き叫ぶ声が、ずっと消えなかった。
数年後のこと、博也の行方は知れず、圭介も彼の姿を見つけられないままでいた。
しかし、ふとした瞬間、夜の静寂の中に、囁くような声が耳に飛び込んでくることがあった。
「帰って…帰りなさい…」その声は、かつての友を思い出させるものだった。
圭介は再びあの庫へ向かう勇気を振り絞り、恐れを抱えながら進んでいくのだった。