供は、古びた神社の近くに住む普通の大学生だった。
彼は友人たちと肝試しをすることが好きであったが、その日は特別な意味を持つ日だった。
神社の祭りの前夜、供は一人で自慢の勇気を試すことに決めた。
夜の闇が深まるにつれ、彼の周囲は静寂に包まれた。
音もなく、ただ彼の心臓の鼓動だけが響いていた。
神社に向かう途中、供は偶然「禁忌の間」と呼ばれる場所に出くわす。
そこは、神社の伝説に語られる悪霊が出没すると言われる場所だった。
好奇心と恐怖心が交錯する中、供は一歩を踏み出した。
今夜こそ、真実を確かめるのだと決心を固めたのだ。
「しっかりしろ、供。おまえは勇者なんだから。」自分に言い聞かせ、神社の境内に足を踏み入れた。
途端、空気が一変し、闇は彼を包み込むように迫ってきた。
彼は禁忌の間に近づくにつれ、微かな声を耳にした。
「助けて」「私を…この場所から…」その声はかすかで、冷たい風に混ざって消えていった。
供は立ち止まり、振り返るかどうか迷った。
しかし、声の主を助けたいという衝動が強まり、彼は禁忌の間へと進んだ。
間の中は薄暗く、古びた榊の木の根が這い回っている。
その真ん中には、朽ち果てた石碑が立っている。
供はその石碑を見つめ、何かが彼に呼びかけているような気がした。
「この場所には、あなたの知らない過去が埋まっている」と心の中で囁かれるように感じた。
すると突然、気配が後ろから近づいてきた。
振り向くと、そこには白い衣をまとった女性の霊が立っていた。
彼女の目は白く、無表情で彼を見つめている。
冷たい恐怖が供の背筋を冷やし、彼は動けなくなった。
だが、彼は何かを感じた。
彼女は助けを求めているのだ。
供は心を決めて言った。
「あなたを助けたい。どうしたらいいんですか?」霊はゆっくりと顔を近づけ、彼の耳元で囁いた。
「禁忌の間に封じられた思いを解放しなければならない。そのためには、私の名を呼び、祈りを捧げるのだ。」
供は震えながらもその名を口にした。
「あなたの名は…」その瞬間、周囲の空気が揺らぎ、霊は一瞬明瞭に姿を現した。
供の視界に映る彼女の姿は、明るい光に包まれていた。
しかし、彼女が持つ表情は悲しみに満ちていた。
「私の名は、日向紗耶。ここから解放して。」供はその名を何度も呼び、祈りを捧げ続けた。
しかし、周囲の闇は深まり、壁が彼を取り囲むように迫ってきた。
恐怖が彼のすべてを蝕み、どうすることもできなくなった。
「あなたには、選択肢がある。」突然、彼の背後から声が響いた。
それは、先ほどの声とは別の、険しい響きのあるものだった。
「彼女を助けるか。自らを犠牲にするか。」
供はひどく混乱した。
自分の命か、彼女の命か。
どちらも失いたくはなかった。
しかし、思い出した。
彼女の悲しみ、塞がれた過去を乗り越えるために、何か行動を起こさなければならない。
「私は決めた。私は…あなたを助ける!」その言葉が口をついて出た瞬間、禁忌の間の闇は激しく揺れ、声が彼の体を貫くように響き渡った。
紗耶の目には一瞬希望の光が宿った。
風が再び吹き荒れる中、供は力を振り絞って祈りを続けた。
霊が彼に触れる感覚を感じながら、彼の心にあった過去の記憶がよみがえる。
彼女の過去、彼女の痛み、それを受け入れることで、供もまた新たな覚悟を決めなければならなかった。
「命を捧げる覚悟を!」供は叫んだ。
その瞬間、暗闇が一瞬にして消え去り、禁忌の間は静寂に包まれた。
目の前に現れた日向紗耶は、微笑みを浮かべた。
その瞬間、供は次の世代へと続く運命を背負っていることを悟った。
彼はその夜、禁忌の間から一歩を踏み出した。
そして、二度と戻ることはなかった。
供の勇気は、彼女を解放することで新たな命の循環を生み出すことを約束したからだ。