「禁忌の湖」

神奈川県の片隅に位置する山村、そこでは毎年恒例の漁が行われていた。
漁師たちは、村の裏手に広がる大きな湖で、神秘的な魚「ルア」を捕ることに情熱を注いでいた。
この魚は、かつて漁を行った老人が密かに封じていた「伝説の魚」とされ、その肉は絶品と称されていた。
しかし、この山の湖には、禁を破る者に訪れる恐ろしい現象があるという噂が根付いていた。

村の若者、健太は友人らと共に、この漁に参加しようと決意した。
彼は物心ついた頃から、その湖の伝説に憧れを抱き、魚を捕まえることが自分の運命だと信じて疑わなかった。
しかし、彼は祖父から何度も語られた警告の言葉を忘れていた。
「ルアを捕まえることは、封じられたものを解き放つことだ。触れてはいけない。」

漁が始まると、健太たちは興奮のあまり湖に向かって釣り糸を垂らした。
漁場は静寂に包まれ、周囲の木々は風も無く、不気味なほどに静まり返っていた。
その時、友人の一人が叫んだ。
「見ろ、ビビってるのか!ルアが見えたぞ!」彼の指差す先には、確かに光る鱗の魚影があった。

勘が働き、とっさに健太はその方に釣り糸を投げた。
そして、遥かなる引きを感じる。
しかし、その瞬間、まるで湖の底から何かが這い上がってくるかのような気持ち悪い感覚が全身を包んだ。
健太の意識は一瞬遠のき、口の中には泥水のような味が広がった。

友人たちがルアを引き上げると、その姿は他の魚とは異なっていた。
青白い光を放つ鱗、無機質な目、静寂の中で彼らの心を揺さぶる存在感を持っていた。
健太はその光景を見た瞬間、恐怖が込み上げてきた。
「これが、封じられた魚なのか…」

全員の気持ちは高まる一方で、健太だけは不安を抱えていた。
巨大なルアが引き上げられ、皆でその美しさに魅了されているが、彼の中では恐れが日に日に増していった。
漁が終わり、夜が訪れると、一人の友人が湖の近くに座り込み、魚の美しさに夢中になっていた。
「こんなに美しい魚を俺たちだけのものにできるとは思わなかった。」

その時、急に湖の水面がざわめき、波紋が広がった。
冷たい風が吹き抜け、影が人々の背後に忍び寄っているような感覚を覚えた。
すると、友人が湖に向かって叫んだ。
「あの魚は飼える!」まるで誘惑に取り憑かれたかのように、その場にいる全員が同じ思考を共有し始めていた。

無意識のうちに、彼らはその魚を湖から持ち出そうとする。
しかし、運命は非情であった。
次の瞬間、友人の一人が悲鳴を上げ、湖の水が彼の身体を包み込むかのように引き込んでいった。
彼はその場で行方不明になり、健太は恐れを感じながらも何もできなかった。

数日後、健太は村に戻る決心をした。
しかし、心の奥底にある恐怖は消えなかった。
村が秘密にしていたこと、漁に参加してはならない理由、そして禁忌を破った結果、何が待っているのかが彼にはわかっていた。

村人たちが集まり、健太を迎え入れた。
しかし、彼の目からは光が失われていた。
その夜、彼は夢の中であのルアの目を見ることになる。
薄暗い湖の底から、彼の魅惑する様子をじっと見つめている。
そして、その瞬間、料の記憶がフラッシュバックする。
健太は囁く声が聞こえた。
「忘れないで、私を…助けて…」その声は、あの友人の声に似ているとも感じた。

やがて、健太は再び湖へと足を運ぶ。
彼は彼らの運命を引きずりながら、その場に立ち尽くしていた。
湖の底には、解き放たれた魂たちが待っていた。
健太はその時、あの美しい魚を思い出しながらも、自身が何を引き起こしたのかを悟ることになる…。
恐怖が彼を包み込むと、湖の深淵に引き込まれていく感覚を覚えた。
彼はもう、逃げることはできないのだった。

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