「禁忌の扉と影の恨み」

陽は、大学の友人たちと共に山奥の古い窟を訪れた。
初めは単なる探検のつもりだったが、この窟には禁忌の扉が存在すると噂されていた。
彼らはそれを知りつつも、好奇心でいっぱいだった。

中に入ると、空気はひんやりとしていて、異様な静けさが漂っていた。
陰影の中に浮かび上がる岩や奇妙な形をしたつる植物が、まるで彼らを見つめているかのように感じられた。
「この窟、すごく不気味だな」と陽が口にすると、友人たちは笑ったが、彼の心の中には不安が渦巻いていた。

奥へ進むにつれて、彼らは徐々にその扉に近づいていった。
周囲の岩肌は滑らかで、まるで人の手によって削られたかのようだった。
陽はその扉を見つめながら、何かが自分を引き寄せるような感覚にとらわれた。

「もう帰ろうよ」と陽が提案すると、友人たちは興奮していた。
「ちょっとだけ、扉を触ってみようよ。」その言葉に導かれるように、彼らは禁忌の扉へと向かった。
扉は重く、無機質な感触が手に伝わる。
陽は触れることができなかったが、友人たちは楽しそうにその扉を開けようとした。

一人が扉に手をかけた瞬間、何かが彼らの背後で動いた。
驚いた陽は振り返った。
薄暗がりの中、何かがうごめいている。
それは人の形をした影で、彼の日常では決して出会うことのないような存在だった。
不安が頭をもたげ、陽は後ずさりした。

「もうやめようよ」と声を震わせる。
しかし、友人たちは興味を失っていなかった。
彼らの中の一人が再び扉に触れ、次の瞬間、悲鳴があがった。
「こっちに来て!何かが!」陽はすぐに彼らのもとへ駆け寄ると、恐ろしい光景を目の当たりにした。

扉の隙間から、何か黒いものがひょっこりと顔を出していた。
それは人間の顔に見えたが、目がまったく光を失っていた。
さらに、その肌は青白く、長い爪が扉の隙間から伸びていた。
恐怖に駆られた陽は、思わず後退り、友人たちに叫んだ。
「早く逃げよう!」

しかし、友人たちはその影に魅了され、近づいていく。
陽の必死の叫びを無視するかのように、その扉は開き始めた。
陽はその光景を見ているしかなかった。
友人たちがその影に触れると、影は瞬時に彼らを飲み込んだ。
陽は恐怖で身動きが取れず、ただその様子を見つめるしかなかった。

やがて、扉は静かに閉じられ、暗闇に包まれた。
陽は恐怖で息を飲み込み、振り返ることもできずに逃げ出した。
谷を抜け、山道をひた走った。
彼はもう二度とその場所に戻ることはなかった。
禁忌の扉、そして彼の友人たちの運命が永遠に変わったことを理解するには、あまりにも時間がかかりすぎた。

彼は生き残ったが、心に残ったのは重苦しい執念のようなものであった。
友人を奪った影、それは今でもどこかで、彼の背後に潜むかのように思えてならなかった。
再びその窟に足を踏み入れることは決してないが、一度目に触れた禁忌の扉は、彼の心の中でいつまでも開かれたままだった。

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