昔々、静かな山里に小さな村がありました。
この村は、古い伝説に語られた神聖な存在によって守られていると信じられており、村人たちはその力に感謝しながら、穏やかな日々を送っていました。
しかし、その神聖な存在には一つだけ、村人たちが踏み込んではいけない「禁忌」がありました。
それは、村の奥深くに封印された古い神々の力の源、すなわち「依」だったのです。
ある日、村に突然、若い旅人が現れました。
彼の名は遼(はるか)といい、旅をしているうちにこの村に迷い込んだと言います。
遼は村の美しさに感動し、住み着くことに決めました。
村人たちは彼を温かく迎え入れ、彼もまた彼らに心を開いていきました。
しかし、遼には一つ苦悩がありました。
それは、彼が求める「真実」を見つけるために、無邪気な村人たちが守るべき「依」である神々の力を探ろうとする欲望でした。
彼は以前からその「限りある力」を持つ神々の話を耳にしており、その存在を理解したいと強く願っていました。
村の人々が「触れてはいけない」と語り継いでいるこの話は、彼の好奇心を掻き立ててやみませんでした。
遼はある晩、村人たちが寝静まった後、思い切って村の奥へと足を運びました。
彼は、山を越え、川を渡り、やがて禁忌の場所である神々の封印が施された洞窟に辿り着きました。
洞窟の入り口は、黒い岩に覆われており、まるで何かを守るかのように頑なに閉じられていましたが、遼は意を決してその中に足を踏み入れました。
洞窟の内部は、暗闇に包まれていましたが、遼は気のせいか微かに感じる神々の力に引き寄せられるように進みました。
やがて、彼の目の前に広がったのは美しい光景でした。
神々が封じられた大きな玉座があり、その周囲には幻想的な光が漂っていました。
その光に目を奪われる遼。
しかし、彼が近づいた瞬間、冷ややかな風が彼を包み込みました。
そして、かすかな声が洞窟中に響き渡ったのです。
「おいで、選ばれし者よ。私たちに触れるな…」
それは、神々の声でした。
遼は背筋に冷たいものが走るのを感じ、まるで身動きが取れなくなりました。
彼は心の奥で感じ始めた恐怖と同時に、好奇心が強まっていくのを実感しました。
神々の力を手に入れたら、何か特別な存在になれるのではないかと考えたのです。
「依が欲しいのか?」再び声が響きました。
「その代償は重いぞ。」
遼は恐怖よりもその言葉の意味に引かれ、呪文のように繰り返す自分に気が付きました。
「代償…?」
彼は神々の存在に惹かれながらも、次第にその存在が苦しんでいることに気づき始めます。
神々はかつて、村を守るために自らを封じ込められ、長い眠りについていたのです。
真実を知った遼の心には、苦しむ神々を救うことで自らの欲望を果たす道が見えてきました。
遼は今、この瞬間に彼らの力を解放することで村を救えるのではなかろうかと考えました。
しかし、そのためには自らの命を賭けなければならないかもしれないという不安が胸をよぎります。
悩んだ末、遼はここで一つの決断をしました。
「私は神々を助ける。私の命を賭けて…!」
その瞬間、洞窟の中で神々が放つ光が眩しさを増し、そして遼は何かに引き寄せられる感覚を覚えました。
彼は視界が真っ白になり、次に目を開けたとき、彼は自らを捧げることで神々を解放していたのです。
村人たちが夜明けを迎えると、遼の姿はどこにも見当たらず、ただ風に乗って聞こえてくるのは、神々の静かな感謝の声のみでした。
そして、それ以来、村には遼の思い出が語り継がれ、神々が再び封印されることはありませんでしたが、彼の勇気が村を守ることとなるのです。