「祭りの後の囁き」

夏の終わり、静かな住宅街に住む佐藤明は、近くの公園で行われる夏祭りを楽しみにしていた。
彼は友人の田中健と、一緒に出かけることを計画していた。
明るい提灯が並ぶ公園には、夜空に浮かぶ星々と、地元の人々の笑い声が響いている。
その雰囲気に心が躍る明だったが、何か不気味な予感がどこかで彼を引き止めていた。

「明、早く行こうぜ!」と健が呼ぶ。
明はその声に応え、二人は祭りの会場へ向かった。
公園にはたくさんの屋台が立ち並び、花火が打ち上げられるのを待っている人たちで賑わっていた。
明も健も、特に金魚すくいや綿飴に心を奪われ、楽しい時間を過ごしていた。

しかし、次第に変わったことが起き始める。
明は何度も視線を感じ、背後を振り返ると、知らない子供たちが何か囁き合っているのを見た。
子供たちの顔は無邪気で、しかしその目はどこか虚ろだった。
その時、明は彼らが何かを隠していると感じ、心の底に不安が広がる。

楽しい時間が過ぎ、花火がスタートする。
美しい花火が夜空を彩り、周囲は歓声に包まれる。
しかし、その瞬間、明は再び瞬時に視線を感じ、子供たちの姿が目に入った。
彼らはいつの間にか、明の近くに寄ってきていた。

「遊びに来て」と、片方の子供が言った。
明は戸惑った。
どうして彼のところに来たのだろうと疑問に思いながらも、無邪気な笑顔に引き寄せられた。
健はその会話を遮るように「今日は忙しいから、また今度な」と言った。
しかし、子供たちは諦めない様子で、明を引き込もうとしていた。

その夜、明は夢の中で不思議な場所にいた。
幼い頃に行った遊園地のような、懐かしい風景が広がっていた。
その真ん中には、子供たちが遊ぶ姿が見えるが、彼らの表情はどこか寂しげで、満足そうではなかった。
夢の中の明は、彼らのもとに歩み寄るが、何かが違和感として潜んでいる。

「一緒に遊ぼう」と、再びあの虚ろな目の子供が言う。
その言葉を受け取った瞬間、周囲の景色が変化し、遊園地は暗く、幽霊のような子供たちが明の周りを取り囲むように立ち尽くした。
明は身体が動かせず、恐怖に襲われた。
彼らの存在には、どこかおぞましい力があった。

次の瞬間、明は目を覚ます。
息が切れるほどの恐怖を抱えたまま、彼はベッドから飛び起きた。
夢の中の子供たちの声が耳に残っていた。
彼は、あの子供たちが何者であるのかを考える。
何かが彼を狙っている、もしくは、彼を引き込もうとしているのではないかと恐怖に駆られる。

翌日、明は健にそのことを打ち明ける。
しかし、健は笑って「お前、ただ疲れてただけだって。祭りが楽しかったから夢を見たんじゃないの?」と言った。
明はその言葉に救われたいと思いながらも、心の中には不安が拭えなかった。
それから数日後、明はそのことを忘れるかのように日常生活に戻った。

しかし、毎晩夢にはあの子供たちが現れ、徐々にその力が強まっていくのを感じていた。
そして、三日目の晩、彼は再び子供たちに取り囲まれ、ついに目が覚めた時には、夢と現実の区別がつかなくなっていた。
夜の静寂の中で、彼は独りきりの世界に閉じ込められたかのように感じていた。

明は、怖くなり、祭りの後は一度も公園に行かなかった。
だが、その後の夏の終わり、彼はとても気になることがあった。
それは、夢の中で呼ばれる場所が存在するのか、そしてあの子供たちが現実に生きているのかということだった。

数ヶ月後、友人たちとの日常に戻ったはずの明は、暗い影を抱えたまま過ごしていた。
しかし、何も知らない友人たちも、なぜか彼を避け始めていた。
ある日、健が「最近調子悪そうだけど、祭りのことが関係しているのか?」と彼の心を覗こうとしていた。
明は頷くことすらせず、ただ目を背けた。

彼の中にある恐怖は、あの虚ろな子供たちの存在が影響していることを理解していた。
しかし、その存在がどこにいるのか、明にはわからなかった。
ただ、未来に待ち受けるものの恐怖が、いよいよ明を追い詰めて行くのだった。

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