ある春の午後、大学生の佐藤花は、友人たちとともに郊外の古い公園に訪れた。
この公園は、かつて人々が集い賑わっていた場所だったが、今は静まり返り、誰も近寄ることのない異様な雰囲気が漂っていた。
花たちはリフレッシュのために訪れたが、心のどこかで、この場所には何か恐ろしい秘密が隠されているような気がしていた。
彼女たちは公園の奥へ進んで行くと、古びた祠を見つけた。
その祠は荒れ果て、周りには雑草が生い茂っていた。
友人の一人、田中はその祠の前で、冗談混じりに「ここで呪いの儀式でもあったら面白いね」と言った。
しかし、花は不安に襲われ、何か言おうとしたが口が重かった。
暗い気配が、彼女の心にずんと重く感じられたからだ。
ふと、花は祠の見知らぬ花が目に留まった。
それは朽ちかけた木の根元に咲いていた真っ白な花だった。
彼女がそれに近づくと、ある不思議な声が耳に響いた。
「花よ、私を拾い上げてほしい」。
驚いた花は周囲を見回したが、誰もいなかった。
怯えながらも、その花を無視することができず、彼女は手を伸ばしてそれを摘んだ。
その瞬間、周囲の空気ががらりと変わった。
重く、湿った感覚が体を包み込み、まるで時間が止まったかのようだった。
友人たちが話す声もかすかに感じられたが、花はその声から引き離されるような感覚を覚えた。
彼女の手の中にある花は、温かいが冷たい感触を持っていた。
そして、心の奥で何かが絡まり、彼女はその異様な感覚を解放することができなかった。
友人たちは公園を離れようとし始めていたが、花はその場から動けずにいた。
彼女の意識は祠に吸い込まれていくような感覚を持ち、この場に留まることを選んでいた。
彼女の心の奥底で、何かの犠牲を求める声が響いていた。
「私を捧げよ。あなたの心の片隅に、私のための場所を与えよ」。
その夜、花は夢の中で不気味な光景を目撃した。
真っ白な花々が一面に広がり、彼女の周りを取り囲んでいた。
次第にその花が、彼女の友人たちの姿に変わっていく。
花は叫んだが、声は虚しく響くばかりだった。
その夢は何度も続き、次第に花の精神を蝕んでいった。
彼女は次第に意識が朦朧としていくのを感じ、周りの友人たちも心配し始めた。
日々が過ぎるにつれ、花は常に不安な感覚を抱え、不眠に苦しむようになった。
彼女は公園で見た祠や花のことが頭から離れず、心が不安定になっていった。
ある日、彼女は友人と一緒に再び公園に足を運んだが、今度はただ不安感に苛まれるだけだった。
「この場は私の場所だ。お前がここに留まる限り、私はお前を手放さない」と、花は聞こえない声に脅えながらも意地を張っていた。
それは、何かを奪おうとする異なる存在の声だった。
彼女は次第に周囲から孤立し、自分の世界が崩壊していることに気づかなかった。
最後には、何もかもが遠のき、花は友人たちに見捨てられた。
孤独の中で彼女は祠の花を思い浮かべ、長い間失われていた自分自身の心の一部を取り戻すことを願った。
しかし、その異なる世界の中で彼女は、永遠に迷い込むこととなった。
あの祠の奥深くで彼女の心が閉じ込められ、二度と戻れないことを知らずに。