「祠に宿る影」

ある静かな村のはずれに、ひっそりとした祠があった。
村人たちはこの祠を神聖視し、触ることすら避ける場所としていた。
昔からその祠には、特別な力を持つ「蛇」が祀られていると語り継がれているのだ。
村人たちは、蛇の存在に触れた者は決して良い結果を迎えることはないと信じていた。

その村に住む大学生の亮は、友人たちと肝試しをすることに決めた。
夜の闇に包まれた祠に足を踏み入れ、悪戯心を抱えながら入っていく亮。
彼は小さい頃からの村の言い伝えを知っていたが、そんな神聖な場所などただの迷信に過ぎないと思っていた。

「おい、亮、やっぱりここは嫌だな。」友人の拓也が言った。
彼もまた、心のどこかで不安を感じていた。
しかし、亮は気を強く持っていた。
「大丈夫だって、何も起こらないよ。」

祠の中は薄暗く、古い木の香りに包まれていた。
中央には、小さな祠があり、茅葺きの屋根がかかっている。
その前には、精巧な彫刻が施された蛇の像が置かれていた。
何か神秘的な雰囲気が漂っており、亮はその美しさに惹かれていく。
だが、友人たちは不気味さを感じていた。

「早く出ようぜ。」と、もう一人の友人、秀が言ったが、亮はその場から離れようとはしなかった。
「ちょっとだけ、もっと近くで見てみようよ。」亮は蛇の像に近づき、触れた瞬間、強い衝撃が走った。
周囲の空気が一瞬変わり、彼の身体が固まってしまう。

その瞬間、亮の脳裏に不吉な映像が浮かび上がった。
祠の奥から蛇の姿が現れ、彼に向かって這い寄ってくる。
その視線には、様々な記憶や感情が宿っているように感じられた。
弱い光の中、蛇の目は彼を見つめ返していた。

「助けて…」彼の口から思わず出た言葉が、友人たちの強い不安感を煽った。
友人たちは逃げ出そうとしたが、亮だけがその場に取り残されていた。
すると、蛇の像が動き出し、実体を伴った存在として彼の前に現れた。

「何をしに来たのか、君は。」蛇は低い声で問いかけてきた。
亮は恐怖で震えながらも、必死に答えた。
「ただの肝試しです。悪気はありませんでした。」

「悪気はなくとも、触れてはいけないものに手を触れたのだ。」蛇は冷たく続けた。
「その代償を払ってもらう。」

亮はその言葉が理解できなかった。
気づくと、周りの友人たちも姿を消してしまっていた。
祠の中には、彼一人だけが取り残されており、後ろにいる蛇の威圧感に圧倒されていた。

「お前の未来は、私に捧げられることになる。これからお前が行く先々で、私の影を背負って生きるがいい。」蛇の目が不気味に光り、亮を捕らえた。
彼の体は固まり、全ての思考が凍りつく。

その瞬間、亮の意識は暗闇に消えていき、彼は何も感じられなくなった。
気がつくと、亮は村に戻ってきていたが、時間はまるで経っていないかのように感じられた。
しかし、彼の心には異様な重荷が残っていた。
友人たちは、まるで記憶に存在しないかのように感じ、祠で起こった出来事は一切思い出せなかった。

だが、亮は祠での出来事を忘れることができなかった。
そして、彼の心の奥底には常に蛇の存在が根付いていることに気づき、日常の中で何かが変わっていくのを感じていた。
じわじわと周囲が歪んでいき、人の心を捉える陰のようなものが彼を覆っていった。

彼はむしろ、そのことを受け入れつつあった。
かつては気にもしなかった村の言い伝えが、彼の日常を覆す影となり、彼の中に宿っていく。
何かが終わり、何かが始まるのを感じながら、亮はその運命を受け入れるしかなかった。

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