彼の名は翔太。
小さな町に住む普通の大学生で、心霊現象や怪談を好む好奇心旺盛な性格だった。
ある日、彼は友人から聞いた「村の祠」にまつわる恐ろしい話を思い出した。
それは「悪の祠」と呼ばれ、誰もが近づかない場所だという。
興味をそそられた翔太は、友人と一緒にその祠に足を運ぶことにした。
薄暗く、静まり返った森の中を歩くと、やがて彼らはひっそりと佇む古びた祠を見つけた。
祠は苔むした石でできており、周囲には誰かの手によって捨てられたような花束が無造作に置かれていた。
翔太はおそるおそる近づき、その様子をじっくりと観察した。
祠には何も特別なものは見当たらなかったが、なぜか不気味な空気が漂っている気がした。
友人は「ここに近づくなって言われているんだ」と言ったが、翔太は気にせず祠の中を覗き込んだ。
そこには、古びた神像が鎮座していた。
神像はどことなく不気味な表情をしており、その目は翔太をじっと見ているような気がした。
その瞬間、翔太は心臓が高鳴るのを感じたが、同時にその神像に引き寄せられるようでもあった。
「写真を撮ろうぜ」と翔太は友人に提案した。
友人はため息をつきながらも承諾し、翔太はスマートフォンを取り出して神像の前でシャッターを切った。
しかし、シャッターが切られた瞬間、彼の耳元に低い声が響いた。
「出ていけ…」翔太は驚いたが、友人はただの wind に過ぎないと言い張った。
しかし、翔太の背筋には冷たいものが走った。
その日以降、翔太は不気味な夢に襲われるようになった。
夢の中で、彼はあの祠の前に立っていた。
そしていつも、祠の中から黒い影が這い出してくるのだった。
翳りのある目が彼を見つめ、耳元で「私を助けて」と囁く。
その声は日に日に増していき、翔太の心に重くのしかかっていた。
数日後、翔太は友人に夢のことを話すことにした。
友人は一瞬驚きつつも、「やっぱりあの祠には何かあるんだよ」と言った。
翔太は心の中に恐れを抱えながらも、「もう一度行こう」と決意した。
今度の訪問は、彼にとって真実を確かめる機会となったからだ。
再び祠の前に立つと、冬の冷たい風が彼の肌を刺した。
彼はゆっくりと祠の中に足を踏み入れた。
再び神像を前にした瞬間、翔太は感じた。
「この祠は悪の力に満ちている」と。
しかし、翔太はその声を無視して、神像に手を伸ばした。
触れた瞬間、耳元に昨日の声が再び響く。
「私を助けて…」
翔太は一気に恐怖に襲われ、手を引っ込めた。
だが、神像が彼を引き寄せるように感じ、抗えない力で引き込まれてしまった。
自分の意志とは裏腹に、彼は祠の奥に引きずり込まれていった。
羽を持つような黒い影が彼を包み込み、心の奥に渦巻く悪を目覚めさせたのだ。
その日から翔太は変わってしまった。
友人が気づいた時には、彼はもう以前の翔太ではなかった。
話し方は淡々としていて、笑顔は影を背負ったように見えた。
翔太は言った。
「私は祠の守り神になった。それが私の運命だ。」友人は困惑しつつも、翔太の姿が次第に神像に似ていく様子を目の当たりにし、恐怖に駆られた。
数ヶ月後、翔太は姿を消し、祠もまた神秘的な現象に取り囲まれた。
彼の噂は広まり、新たな訪問者が現れ、同じように祠に囚われていく。
翔太の姿は祠に、かつての「悪」と共に共存しているのかもしれない。
洞窟の奥からは囁き声が聞こえ、「私を助けて」と呼ぶ声が途絶えることはなかった。