「神社の隠れた声」

帯の街は、小さな町ながらも、その独特の雰囲気から人々を引きつけていた。
街の真ん中にある古びた神社は、いつも静まり返っており、地元の人々はそこに近づくことを避けていた。
神社には伝説があった。
「隠れた声を信じる者は、決して逃れられない運命を背負う」と言い伝えられていた。

ある日、友人の誘いで、私はその神社へ行くことになった。
友人は興奮した様子で、「面白い噂があるんだ。夜中にその神社に行くと、謎の声が聞こえるらしいよ」と語りかけてきた。
その好奇心が勝り、私は友人に付き合うことにした。
暗くなった街を抜け、神社に到着すると、月明かりだけが道を照らしていた。
神社の周りには静けさが漂い、風の音だけが耳に響く。

私たちは境内に入り、しばらく黙っていると、風が強くなり、けたたましい音が耳に届いた。
友人が不安そうに私を見つめ、「声、聞こえた?」と囁いた。
疑念を抱きつつも、私は「たぶん風の音よ」と返事をした。
しかし、心のどこかで不安が募っていた。

時間が経つにつれ、その声は確かに聞こえるようになった。
最初は聞き取れないささやきだったが、徐々にその内容が明瞭になってきた。
「助けて…」「隠れて…」そんなフレーズが繰り返されている。
喉が渇いて不安になると、友人が私の腕を強く掴んできた。
「もう帰ろう、これはおかしい」と言うが、私はその声が何を意味するのか確かめたくなった。

私の心には好奇心が渦巻いていたが、その好奇心が危険な道へ導くことになるとは思っていなかった。
私は声の方へゆっくりと足を進めた。
友人は恐怖からかん高い声をあげながら私を止めようとしたが、私の意志は固かった。
すると、声が次第に強くなり、私の心臓が高鳴り始めた。

神社の奥に進むと、月明かりが完全に遮られて暗闇が巧妙に隠されていた。
そして、突然、その声が一際大きく聞こえた。
「隠れろ!信じるな!」という警告のような響きが耳に刺さった。
その瞬間、強烈な寒気が背筋を走り、私は動けなくなった。
後ろを振り返ると、友人の姿は消えていた。
脳裏には「逃げろ」という言葉が強く響き、私の心には恐怖が広がっていた。

神社を後にしようと必死の思いで走り出したが、何かに引き寄せられるような感覚に襲われ、振り返る度に声が重く響いた。
私を呼ぶ声、助けを求める声、そして逃げていく友人の影がちらっと見えた。
一瞬で不安と恐怖が沖に押し寄せ、心臓が爆発するかのように高鳴った。

ようやく神社の外に出たころ、背後からはそれまでの声が途絶え、ただ静寂だけが残った。
しかし、胸の奥には重苦しい感覚が残り、友人のことで心が揺れていた。
今となっては、私の視界から失われた友人は、あの神社の中で何かに捕われたのかもしれない。
安息を求める声が私の心にこだまし、私はそのことを誰にも話せずにいた。

あれから、あの神社には近づかなくなった。
だが、時折夜になると耳にする声が、私の心を掴み続けている。
隠されているもの、信じられないこと、逃げることができない運命。
それは、今もどこかで続いているのかもしれない。

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