「神社の裏に潜む影」

静かな北海道の田舎町、松田村。
村の外れには、誰も近づかないという小さな神社があった。
そこには、祀られている古い神様がいたが、長い間放置され、荒れ果てていた。
地域の人々は、その神社に住む「見えないもの」が災いをもたらすという噂を恐れ、なるべく近づかないようにしていた。

ある日、大学生の加藤健太は、友人の佐藤真理と共にこの神社についての噂を確かめるために訪れることを決めた。
健太は好奇心旺盛で、怖い話が大好きな性格だった。
一方、真理は少し怖がりだが、健太の押しに負けて一緒に行くことにした。

「大丈夫だよ、何もないって。行ってみようよ」と健太が言い、真理は若干不安そうな表情を浮かべながらも頷いた。
薄暗い森を抜けると、朽ちかけた石の鳥居が現れ、その先には神社がうっそうとした木々に囲まれて佇んでいた。

神社に足を踏み入れると、周囲の空気がだんだん重たく感じられ、二人は少し緊張した。
古びた鳥居をくぐり、拝殿に近づくと、そこには神様の像が無造作に並べられていた。
健太は興味深そうにいくつかの像を指差し、真理はその後ろで不安な様子で彼を見ていた。

「ねえ、これが噂の神様なの?」と真理が言う。
「本当に見えないものがいるのかな?」

「そんなの気にすることないよ。ただの話さ、実際には何も起こらない」と健太は明るく答えたが、彼自身もどこか心の中に不安を抱えていた。

神社の周辺を探検するうちに、健太は一際目立つ古い絵馬が下がっていることに気付いた。
その絵馬には、「見えないものに気を付けよ」という不気味な文字が書かれていた。
健太は笑って「単なる伝説だろう、どうせ」と言ったが、真理はその絵馬を見てすぐに顔を青ざめさせた。

「もう帰ろうよ、こんな場所にいるのは良くないって……」と真理が言う。
その時、周囲の風が急に強くなり、木々がざわめき出した。
健太は気を強く持ち直し、少し遊び心で神社の奥にある祠へ足を運んだ。

祠の中に入ると、むっとした湿気と奇妙な匂いが立ち込めていた。
その瞬間、健太の目の前で、何かがフッと動くのが見えた。
「あれ、見た?」と、声を震わせながら真理に振り返ると、彼女は逃げるように祠を飛び出していった。

「ちょ、待てよ!」健太が追いかけると、真理はすでに外で震えていた。
彼女の震える声が風に乗って健太の耳に届く。
「何かいる、本当に見えた……!」

健太は周囲を見渡したが、特に何も見えなかった。
しかし彼の胸に温かいものが走り、冷静さを失った瞬間、彼も何かが見えた。
不自然に揺れる影、それが目に映り、彼は恐怖に捕らわれた。

「それ、何だ?」と健太が言いかけたその時、森に入り込んだ静寂が一層深まった。
そして静寂の中から、かすかな笑い声が霧のように漂い出た。
真理はその声に敏感に反応し、逃げ出した。

「待って、行くな!」と叫ぶも、健太もまた逃げた。
二人は必死に森の中を駆け抜け、神社から離れようとしたが、見えないものの気配が背後から迫ってくるように感じた。

ようやく神社を振り返ると、そこには無数の目が光るように見えた。
木々の間から漏れる月明かりに照らされ、影がひとしきり動いていた。
健太は初めて目の前に現れたそれが、失われた表情とともに、彼らを見下ろしているような気がした。

「もう行こう、戻らない!」と健太が叫び、手を取り合いながら二人は一心不乱に闇を避け、急いで町へと帰った。

事が落ち着いた数日後、健太は友人と会うと、先日体験した出来事を語った。
しかし、健太の心の中には、あの夜の恐怖と共に見えないものが存在していたことを忘れられなかった。

それ以来、健太と真理は時折、何かが見えるかもしれないという恐れを抱きながら、過去を振り返ることがなくなった。
どこかに潜む「見えないもの」は、彼らを忘れさせず、物語の中で生き続けているのだ。

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