ある静かな村に、若い夫婦が住んでいた。
夫の名は健太、妻の名は美沙子。
彼らは幸せな日々を送っていたが、ある日、村にやってきた噂が彼らの生活を一変させた。
その噂というのは、村の外れにある古びた神社で、亡くなった人々の「気」が集まる場所があるというものだった。
その神社では生者の「気」が通り過ぎた後に、亡き者たちのが滞留するため、そこを通ると不幸が訪れると言われていた。
健太はその噂を信じず、興味本位で神社を訪れることにした。
美沙子はその不気味な話を聞いていたため、彼に行かないように言ったが、健太は聞く耳を持たなかった。
「何も起きやしないさ」と笑い飛ばし、次の晩に神社へ向かった。
彼は夜空の星を見上げながら、周囲の静けさに心を躍らせていた。
神社に着くと、異様な静寂が迎えた。
月明かりが照らす中、健太は一歩ずつ石畳を進む。
周辺に流れる奇妙な「気」を感じながら、彼は神社に辿り着くと、そこで立ち止まった。
花が萎れている様子や、神社の社が古びているのを見て、少し不吉な気持ちが胸に広がる。
しかし、好奇心が勝った健太は、神社に向かって声をかける。
「誰かいるのか?」その瞬間、冷たい風が彼の背筋を撫でた。
背後でわずかな気配を感じた健太は振り返るが、そこには何も見当たらない。
彼はすぐに気を取り直し、そっと手を合わせた。
すると、背後からは微かに「亡き者たちの気が離れかけている」という声が聞こえた。
驚いた健太は、声の主を探すが、誰もいない。
恐ろしさが彼の心を掴むと同時に、走り出すべきか考えた。
すると、まるでその場の「気」が彼を引き止めるように、首筋を冷たいものが撫でる。
引きつった笑顔で、ささやくような声が耳元に響く。
「帰れ…」
その声に背中がゾッとした健太は、一気に神社の外へと逃げ出した。
しかし、彼が村に戻ると、ある異変が待ち受けていた。
美沙子が、何も知らないまま寝込んでいたのだ。
彼女の身体は熱を持っており、まるで夢の中にいるかのように不気味な静けさを漂わせていた。
弟の亮が彼女の傍にいる。
「美沙子が変なんだ、健太!」亮の声に、健太は急いで美沙子を抱きしめた。
彼女はうわごとを言いつづけ、目を覚まさせようと努力するも、無駄なようだった。
恐れと焦りに包まれた健太は、先ほどの神社のことを思い出す。
「あの神社で何かが起きたんだ、彼女の中に亡き者たちの気が流れているのかもしれない…」
夜が更け、健太は何か解決策を見つけなければならなかった。
村の長老に相談すると、「村の平安を保つためには、亡き者たちとの和解が必要だ。神社へ戻り、彼女に神社の「気」を流してやれ」と言われた。
時間は限られている。
健太は再び神社へと足を運ぶ決心をした。
神社に戻ると、再び「亡き者たちの気」が感じられた。
全てを受け入れた健太は、目を閉じ、心の底から美沙子のために許しを乞う。
「どうか、彼女を助けてください!」声を張り上げて叫ぶと、周囲の「気」が吸い込まれるように集まり、明るい光に包まれた。
不意に、彼の心に温かな感情が流れ込み、背後に浮かんでいた影が消えた。
健太はその場から目を開けると、美沙子が元気になって隣に立っていた。
「健太…私…何があったの?」疑問に満ちた美沙子が微笑む。
この出来事を通じて、夫婦の絆はより強く結ばれたが、彼らは心に深い教訓を抱え込むことになった。
「亡き者の気が生者に影響を与えることは決して忘れない。」彼らは静かに生きていくことを決意した。
夜の村は再び静寂に包まれ、美沙子はその奇妙な体験を語ることはなかった。