「神社の影に潜む忘れられた声」

木々がざわめく静かな村の外れに、古びた神社が佇んでいた。
その神社は、村人たちにとっては忘れ去られた存在であり、訪れる者はいなかった。
神社の背後には、長い間手入れされていない森が広がり、時折不気味な声が聞こえるという噂もあった。
そのため、村人たちは神社には近づかないようにしていた。

ある日の夕暮れ、大学生の勇太は友人の信彦と共に肝試しをすることに決めた。
思い出作りのために訪れた神社は、噂通りの不気味な雰囲気を漂わせていた。
勇太は興奮と共に懐中電灯を手に取り、「さあ、行こう!」と言った。

二人は神社の境内に足を踏み入れ、周囲を見渡した。
薄暗い境内には苔むした石灯籠や風化した木の鳥居があり、どこか不気味な雰囲気を醸し出していた。
信彦は怯えながらも、「こんなところ、本当に怖くないのか?」と不安がる。
しかし勇太は笑い声をあげ、「大丈夫だって、ただの神社だろ?」と余裕を見せる。

しばらく境内を歩き回っていると、突然、冷たい風が吹き抜けた。
二人はその風に驚き、顔を見合わせた。
その瞬間、勇太の懐中電灯がパッと消えてしまった。
「え?なんで消えたんだ?」勇太は焦りながら懐中電灯を振動させた。

だが、光が戻ることはなかった。
暗闇の中で信彦の声が震えて聞こえてくる。
「早く戻ろう、もうここにはいたくない…」勇太は「大丈夫だ、ただの故障だよ、すぐに戻るから!」と気丈に振る舞ったが、心の中では不安が渦巻いていた。

その後、二人は神社の奥に進んでみることにした。
ただの神社にしては異様な雰囲気が漂っていたが、興味が勝った。
「この神社には伝説があるんだって」と勇太は講釈を始めた。
「神主が祀っていた神の怒りに触れると、突如として何かが現れるらしい」と話していると、信彦が恐怖に震える。
「やめろって、そんなこと言わないでくれ…」と彼は怯えていた。

その夜、急に神社の中から奇妙な音が聞こえてきた。
パタパタと何かが跳ねるような音が、森の中に響き渡る。
二人は思わず顔を見合わせ、息を呑んだ。
「これは…本当に何かいるのか…?」信彦の声は震えていた。

その瞬間、神社の奥から、黒い影が突如として現れた。
影は、神社の背後の木々からのぞき込むように二人の様子を伺っていた。
勇太は目を凝らしてそれを見ると、影はまるで人間のような形をしているが、特徴が全くなかった。
「あれは…何だ?」勇太がつぶやくと、その影は一瞬大きくなり、二人の方へ突進してきた。

二人は悲鳴を上げながら逃げ出した。
しかし、どれだけ走ってもその影は追いかけてきたようだった。
勇太はついに息切れし、立ち止まった。
「信彦、行け…お前一人でも…」と言うが、その瞬間、背後から冷たい手が彼の肩に触れた。
振り返ると、影がどこにも見当たらなかった。

その後、勇太は誰かの気配を感じ、振り返った先には、村で行方不明になった少女の姿が見えた。
彼女は微笑んでいたが、その目は虚ろで空虚だった。
「助けて、私を…忘れないで…」と声が響く。
勇太は恐怖に体が動けなくなり、ただその場で凍りついた。

一方、信彦は無事に村へ逃げ帰ったが、勇太の姿は消え、彼もまたその神社の恐ろしい伝説の一部となった。
村人たちはそれ以降、神社には一切近づかなくなり、勇太の名を口にすることもなかった。
しかし、神社の奥には今でも少女の声が響いているのだろう。
「助けて…私を、解放して…」その声は、静かな村に不気味な響きを与えていた。

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