村の外れにある古びた神社、そこは「び」と呼ばれ、地元の人々から敬遠されていた。
何かが潜んでいるような不気味な雰囲気が漂い、夜になると特に恐ろしさが増すと言われていた。
人々はこの神社に近づくことを避け、特に「い」と呼ばれる不思議な現象が起きる時間帯、すなわち深夜零時を過ぎた辺りには、誰一人として足を踏み入れなかった。
ある晩、大学生の佐藤裕介は友人たちとバカ騒ぎをしながら、この神社の噂を耳にした。
彼は好奇心旺盛であり、恐怖心よりも興奮の方が勝っていた。
「行ってみようぜ、面白いことになるかも！」裕介の言葉に、友人たちは少し戸惑いながらも、最終的にはノリでついて行くことに決めた。
神社に到着すると、薄明るい月光が神社の鳥居を照らし出している。
裕介は「ほら、まったく怖くないだろ？」と友人たちを笑わせながら、神社の中に足を踏み入れた。
周囲は静まり返り、まるで時間が止まったかのようだった。
彼らが神社の奥に進んでいくと、突然、何かが動いた。
影のようなものがぴたりと止まったかと思うと、一瞬で消えてしまった。
裕介は「おい、見たか？」と興奮気味に言ったが、友人たちは怯えた様子で、もう帰ろうと言い出した。
しかし、裕介はそのまま進むことにした。
彼は奥の社に近づくにつれ、周囲の空気がひんやりとしていくのを感じた。
その場にあった祭壇の中央には十字や円が描かれた特殊な石が置かれていた。
「これが『い』の正体なんじゃないか？」と裕介はつぶやいた。
彼は何かを感じ取り、この石に触れることで奇妙な現象が起こるのではないかと思った。
裕介はそっと手を伸ばし、石に触れた瞬間、周囲が暗くなり、視界が歪んでいく。
目の前で何かが動いているのが見え、がらんとした神社の奥から、不気味な笑い声が聞こえてきた。
「裕介、裕介！」それは親友の声だったが、どこかいつもとは違った響きがあった。
彼が振り向くと、友人たちの顔が消え、そこには見慣れぬ、しかし何か懐かしい表情を持った顔が浮かんでいた。
「私の運命を変えたい？あの時、私がどうなったか知っているの？」その言葉に裕介は凍りついた。
その瞬間、過去の出来事が彼の頭の中に鮮明に浮かび上がる。
彼がいつも無視していた友人、仲間たちの苦しみや孤独が彼を包み込んだ。
「私は…見えていなかったのか？」裕介は心の中で叫んだ。
光が彼を包み込み、次の瞬間、彼は元の神社に戻っていた。
友人たちは彼を見て驚き、「戻ってきたのか、お前何してたんだ？」と声をかけてきた。
しかし裕介はその時、自分が見た幻影のことを語る勇気が出なかった。
彼はただ、自分の無関心がどれほど人を傷つけるかを思い知っていた。
それからというもの、裕介は友人たちとの絆を深めるために努力することを誓った。
「見えないものを見えるようにする」と。
「い」を名乗る存在が彼に教えた教訓を、彼はこれからも忘れないだろう。
神社の奥に隠れているそれは、ただの怪異ではなく、自分の内なる恐怖や無関心を映し出す存在だったのだ。
