夜の静寂の中、町外れの古びた神社には一つの霊が住み着いていた。
彼女の名は美咲。
生前はこの神社の巫女として、人々の願いを叶えるために尽力していたが、ある夜の不運な事故で命を落としてしまった。
その日から彼女は霊となり、今も神社を守り続けていた。
美咲の存在は町中で薄く知られていたが、ほとんどの人々はその話を信じてはいなかった。
ただ、特定の人々にだけは特別な意味を持つ存在だった。
それは、仲の良い友人たちの間では、彼女が例えられる存在として語られ、思い出話となっていた。
美咲の霊は、平和に暮らす人々を守っているという噂が流れ、友人たちはその言葉を信じて疑わなかった。
ある晩、大学の友人である健二、智子、そして直樹が、この神社を訪れることにした。
まさに夏の夜、風が涼やかに吹き抜け、月明かりが森の奥にある神社を照らしていた。
彼らは集まってこの神社についての噂話を聞きながら、確認をすることを決めた。
「ねえ、美咲のこと、本当に信じてる？」智子が口を開いた。
「ただの都市伝説じゃない？」
「でも、友達の挨拶として、神社に行ってみるのもいいだろう？美咲が助けてくれるって、みんな言っていたし。」健二が言った。
「私たち、最後まで信じようよ。行ってみたら、もしかしたら本当に出会えるかもしれない。」直樹も同意した。
彼らは神社に到着すると、荘厳な木々が立ち並ぶ中、祈りを捧げるために無心で静かに座ることにした。
その時、何も起こらない静けさの中、彼らは互いに気まずい笑いを交わすが、心の奥には不安が潜んでいた。
時が経つにつれて、友人たちは何か見えない力に引き寄せられるように神社の奥へと進んでいった。
すると、突如として肌寒い風が吹き抜け、周囲が不気味に揺れ動いた。
しかし、彼らは恐れを抑えて進む。
その時、美咲の霊が現れた。
「あなたたち、どこへ行こうとしているの？」美咲の声は静かで柔らかい響きがあった。
友人たちは驚き、目を見開いた。
「美咲…！」智子が声を上げる。
彼女は笑顔で彼らを見つめ、一歩近づいてきた。
「私に会いに来てくれたの？私を忘れないでいてくれるのはとても嬉しい。」
その言葉は彼らの心にじんわりと広がった。
しかし、その瞬間、何かが彼女の表情を険しく変えた。
「でも…あなたたちがこの場にいることは、私を苦しめることでもあるの。」
心の中に不安が広がり、健二が問いかけた。
「どういう意味ですか？」
「私はここにいるけれど、命を持っていた頃とは違う。友人を守ることができない、ただの霊として、あなたたちの仲間でいることができるの…でも、私は一つの制限がある。私がこの神社を離れると、私の力は弱まり、他の存在にさらされる。」
直樹が戸惑いながら言った。
「美咲…もしかして、私たちのことを守ってくれるためにここにいるんですか？」
美咲はその言葉に微笑みながらも、悲しげな瞳で彼らを見つめた。
「そう、でも私が守ることができるのはこの神社の中だけ。外に出ることはできないの。だから、どうか無理をしないで。」
友人たちは恐怖を感じながらも、美咲の気持ちに寄り添った。
しかし、彼らは別れの時が来ることをお互いに感じていた。
再び静けさが神社を覆い、月明かりが薄れていく。
「私たちは、いつでもあなたのことを思い出します。」健二の言葉は優しさに包まれていた。
「だから、絶対に一人じゃないよ。」
美咲の顔は穏やかにほころび、彼女は静かに消えていった。
力強い風が再び吹き、友人たちの身体を包み込むようだった。
美咲のことを知り、夫々の道を歩んでいく友人たち。
彼女の思いは彼らの心に生き続け、平和な日々が再び訪れるのだと信じているのだった。
