夜の繁華街を遠くに見下ろす高台に、石造りの古びた神社がひっそりと構えていた。
多くの人々が通り過ぎるその場に、訪れる者はほとんどいなかった。
しかし、健一は何かに引き寄せられるように、その神社の境内に足を踏み入れてしまった。
神社に入ると、周囲は不気味な静寂に包まれていた。
月明かりが木々の間から差し込むが、その光は薄暗く、まるで神社内の空気を重くしているかのようだった。
健一は、そんな神社で何が待ち受けているかを想像しながら、進んでいった。
奥に進むと、祠が見えてきた。
そこには古い石の神像が見守るように佇んでいる。
健一は胸の奥に何かがざわめくのを感じた。
それは好奇心と同時に、不安を煽る感覚だった。
心の中で「こんなところに来るべきじゃない」と自分に言い聞かせながらも、彼は祠の前に立ち、静かに手を合わせた。
その瞬間、何かが彼の背後で動いた気配がした。
振り返ると、そこには誰もいない。
ただ風が木々を揺らし、夜の静けさを保っている。
しかし、彼の心には恐怖が芽生え、それが彼を再び祠に戻らせた。
彼は何か異変を感じていた。
次の瞬間、空気が一変したのだった。
周りが明るくなると同時に、彼の心の奥に隠されていた過去の出来事が思い出されてきた。
彼の友人である翔太が、自分の目の前で事故に遭ったときの情景が、鮮明に蘇ってきた。
あの日、健一はただ立ち尽くしていただけで、何もできなかった。
その記憶が心の中を渦巻くと、周囲の光は明るさを増していった。
まるでその過去を思い出させるかのように、神社の聖なる力が彼の前に現れていたのだ。
彼は思わず、「翔太、ごめん…」と呟いた。
すると、その言葉が響いた瞬間、どこからともなく、翔太の声が聞こえてきた。
「健一、お前はもう振り返る必要はない。私のことを気にするな。前に進め。」
その声は明晰で、どこか優しさを含んでいた。
しかし、同時にその言葉は彼の心を引き裂くように響いた。
健一は心の中で、翔太の言葉が彼の背中を押しているのを感じた。
彼は思わず涙を流し、神社の神像に向かって深く頭を下げた。
「今までのことを忘れて、前に進むよ。翔太が見守ってくれている限り、私は大丈夫だ。」彼はその瞬間、心に重くのしかかっていた恐怖が消えていことを感じた。
明るさが徐々に消え、周囲が元の静寂に戻ると、健一はその場を離れ、神社を後にした。
何かが彼を呼んでいたのかもしれない。
しかし、彼はもうその呼び声に振り回されることはなかった。
彼の心の中には、過去の傷があったが、それもまた彼の成長の一部だと受け入れることができた。
神社の長い石段を降りながら、彼は新たな決意を抱いていた。
どんな困難が待ち受けていても、恐れずに前へ進むと。
そして、翔太の存在を大切にしながら、自分の人生を生きていくことを心に誓った。
振り返ることなく、自分の足で進もう。
彼はそう思いながら、夜の街へと足を踏み入れていった。