静かな田舎町にある小さな村。
村の外れには、大きな古い神社があった。
神社は周囲を深い森に囲まれ、普段はほとんど人が訪れることはない。
しかし、村の子供たちの間では、その神社にまつわる奇妙な噂が広まっていた。
特に「明」という名の少女には、その話が痛いほど耳に残っていた。
明は14歳で、村の中でも少し内気な性格。
友達と遊ぶよりも一人で本を読むことが好きだった。
ある日、彼女は本の中で「神社には怨霊が棲む」という話を読み、その夜、神社の存在が頭から離れなかった。
事故で亡くなった村の伝説の少女、古藤佳恵は神社に閉じ込められているという。
佳恵は生前、村に大きな恩恵をもたらしたとされていたが、ある日姿を消してしまった。
村人たちは、彼女を救うために神社に行くことを恐れていた。
興味を持った明は、思い切って神社へ行くことを決意した。
夜になり、月明かりの下で静まり返った神社に明は足を踏み入れた。
境内は心地よい静寂に包まれていたが、どこか異様な雰囲気が漂っていた。
鳥居をくぐると、突如として冷気が彼女を包み込む。
神社の中は薄暗く、明はそのまま進み続ける。
拝殿の前で立ち尽くしていると、背後で何かが動く音が聞こえた。
振り返ると、そこにはぼんやりとした光を放つ何かが立っていた。
その姿は次第に明確になり、透き通るような白いドレスをまとった少女が目の前に現れた。
「私の名前は佳恵。助けて…」
その声は心に直接響き、明は心音が高鳴るのを感じた。
佳恵の悲しい表情には怨念ではなく、思いが込められているように見えた。
明は恐怖を抱えつつも、その目には力強い何かが宿っているのを見抜いた。
「どうすれば助けられるの?」明は思わず口にした。
佳恵は、静かに自らの過去を語り始めた。
彼女は、自分が村を守っていたこと、そしてある夜、悪意を持つ者に裏切られ、神社に封じ込められてしまったことを。
今も彼女の存在はこの世にとどまり続けているが、村人たちの恐れが彼女を解放できないのだと。
「私を解放してほしい。私の存在を忘れないで…」
明は思わず涙ぐみ、彼女の願いを真剣に受け止めた。
佳恵が怨霊ではなく、助けを求める存在であることを理解したとき、明の心は決意で満ちた。
彼女は自分の知っている方法で村人たちに佳恵の話を伝えることを約束し、神社での体験を決して忘れないと誓った。
その瞬間、澄んだ月明かりの中で佳恵の姿が輝き始め、明の手を優しく包み込んだ。
「ありがとう、明。あなたが私の光となってくれた。」
次の朝、明は村に戻り、佳恵の話を村人たちに伝えた。
初めは信じてもらえなかったが、明の真剣な瞳を見て、少しずつ話は広まっていった。
そして、村人たちは自らの恐れを乗り越えて神社へ足を運び、佳恵に手を合わせるようになった。
時が経つにつれ、村には心の平和が戻り、佳恵の存在を忘れないようにと、新しい伝説が語り継がれた。
明は、かつての恐れを抱いていた神社を、今や光のある場所に変えることができたのだ。
彼女の心は、佳恵とともに生きることができた喜びに満ちていた。