小さな田舎町、静かな村の外れにある古い神社は、周囲の人々からは忘れ去られた存在であった。
しかし、その神社には、一つの不気味な噂があった。
「足を失った者は二度と戻らない」という言い伝えである。
その村に住む田中健太は、友人たちと共に神社の肝試しに挑戦することを決めた。
彼は甘い言葉に乗せられ、興味本位でその場所を訪れることになった。
夕暮れ時、鳥の鳴き声も消え、周囲が薄暗くなる中、仲間の佐藤美咲と山田太郎も合流し、三人は神社目指して足を進めた。
神社への道は細く、木々に囲まれた薄暗い小道を進む。
健太たちの笑い声は、次第に重苦しい静けさに飲み込まれていく。
どこか異様な雰囲気を感じ取りながらも、彼は心を鼓舞して神社に到着した。
周囲は苔むした石と朽ちた木の根に覆われ、もう何年も誰も訪れた気配が感じられなかった。
「これが本当に神社?」美咲が不安そうに呟くが、健太は「大丈夫、何も起こらないよ」と励ました。
しかし、その言葉には自信が欠けていた。
神社の境内に入ると、何か不気味な視線を感じた。
辺りには無言の圧が漂い、彼らの心を重くし始める。
迷信を気にする太郎が「帰ろう」と言い出したが、健太は「先に行こうよ、面白いことがあるかもしれない」と言って、その場を譲らなかった。
そして、三人は神社の中央にある小さな祭壇に近づくと、そこにはひび割れた石の彫刻があった。
上には「求める者は、何かを捧げよ」と刻まれていた。
いきなり、健太はその言葉が気に留まった。
彼は笑いながら「足、捧げるよ!」と冗談を言った。
すると、不思議なことが起こった。
その瞬間、足元の大地が揺れ、彼はバランスを崩してしまった。
驚いた美咲と太郎が叫び声を上げる。
その刹那、健太の足元に黒い霧が現れた。
その霧はまるで生きているかのように彼の足を包み込み、次第に冷たさが広がってくる。
恐怖に駆られた彼は後退ったが、逃げることはできなかった。
彼の足は、神社の魔力に捕らえられていく。
「健太!お前どうした?」太郎が叫んでも、健太は応えられない。
彼はただ恐怖で目を見開いていた。
やがて、彼の足の指先が霧に飲み込まれ、次第に足首も、そのまま神社の境内に吸い込まれていった。
「やめてくれ!頼む!」と叫ぶが、その声は神社の静寂に消え、どこにも届かない。
美咲と太郎は彼を引き戻そうと必死になったが、健太の体は完全に黒い霧に覆われていった。
気づけば、彼は地面にひざまずき、絶望の表情を浮かべていた。
その後、周囲が静まり返る中、健太の姿は次第に薄れ、最後には霧が彼を呑み込んでしまった。
美咲と太郎はその様子を呆然と見つめていた。
時間が止まったかのように、二人は彼の姿を探そうと周囲を見回したが、もうどこにも彼はいなかった。
恐怖に襲われた二人は、急いで神社から逃げ出そうとした。
だが、逃げる途中で彼らは不安定な視線を感じ、その怯えが心に根を下ろしていた。
村へ戻る道すがら、二人は不安と恐れに満ちる心を抱え、小さな村の灯りが見えたとき、ほっとした。
しかし、その晩、美咲は夢の中で健太の声を聞いた。
「戻ってこい、俺の足を捧げたのに、どうしてお前たちは帰るんだ?」彼の声は恐ろしいほど冷たく、彼女の心に響いた。
目を覚ましたとき、彼女は冷や汗をかいていた。
数日後、健太の姿を求める村人たちの噂を聞くと、彼女の心は再び重くなった。
そして、彼女は体のどこかに、健太の足を失った痛みを感じ始めていた。